第6話 お似合いな2人

「どうぞ、こちらです」

 衣装部に案内すると、事前に連絡を入れていたチーフがすぐにやって来た。名刺を渡すタイミングでチーフに頭を下げ

「では、よろしくお願いします。私はマ

ネージャーに報告してすぐ戻ってきます」

 お客様にも一礼して、部屋を出た。

「勇太さんは、どんなドレスが好き?」


 2人の話し声が聞こえないように部屋を出ると大きく息を吐いた。いつもなら見慣れている光景のはずなのにうまく息ができない。

 ホテルの仕事に関わるようになって、幸せになる2人のお手伝いすると幸せのパワーをもらえるような気がしていた。

 …でも、今日だけは見たくないと思う自分がいる……寄り添う2人も…幸せな2人も…幸せな未来も


 自分で決めたはずなのに…感情は追いつかないまま、こんな偶然な出会いが起きることをただただ恨めしく思うしかなかった。


 マネージャーにこれまでの報告と、衣装部にいることを伝えると

「くれぐれも失礼のないようにね、今のところ、うち1択らしいけど、なにが起こるかわからないしね」

と笑顔で釘を刺された。

 

 衣装部に戻ると、にぎやかな声が外にまで聞こえてくる。気持ちを切り替えるために、自分で自分の両頬を叩いて部屋に入った。


「そうですね、人気の形は、こちらの海外のブランドのもので、日本の若いデザイナーのものも最近よくでています。オーダーになると、少しお時間をいただくようになります」

 衣装部のチーフの話を身を乗り出して聞いている彼女とその横にいる彼は、とてもお似合いだ。私だけでなく、周りにいる人が10人いたら10人がお似合いだと言うだろう。…何もかもが…釣り合っている2人なら、誰からも反対されることなんてないだろう…。そんな事を考えてぼんやり立っていた私に気づいたチーフが手招きした。

「白波さん、今日スタッフが何人かお休みなの。とりあえず何着かドレスの試着をされるから、男性の方の試着手伝ってくれる?」

「…はい」

「お二方はそれぞれの試着室に。お母様方はあちらのお席でお待ちください、お飲み物をご用意いたしますので」

 衣装部の試着室の入口で二手に分かれて、大きな試着室に入った。

「それでは、白のモーニングから着て頂きます。今お召しになられてるTシャツのままで結構ですので、ジャケットを脱がれて、ズボンのほうはこちらです」

「白波さん、ジャケットとズボンをハンガーの方に」

「はい」

 テキパキと小道具を準備し始める横で、手持ち無沙汰な私はジャケットを脱ぐ彼を待っていた。

「これ」

 手渡されたジャケットは、誰もが知る海外の上品なブランド、これ一着で何十万もする…あの頃はただのおしゃれ好きだと思っていたから、何のブランドを着てるかなんて気にも留めなかった。ジャケットのホコリを軽く払い、ハンガーにかけ、さらにズボンを着替えた彼がでてくるとズボンを受け取った。シャツとタイをつけて上着を着せると正装のモーニングコートが出来上がった。

「よくお似合いです、花嫁様と並んでも、とても良く映える白なので素敵です!ねっ、白波さん」

「…はい、とてもお似合いです」

ちゃんと見てもいないのに答えた。


「あちらのカーテンから出ると花嫁様とお会いできるようになっていますので」

 それぞれの試着室の奥のカーテンから出ると、両家の方が待つテーブルの前に出るようになっていた。彼が奥のカーテンに進んで、やっと彼の後ろ姿を見て…胸が張り裂けそうだった。







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