第5話 どうすればいいのか

 家に連れ戻されてから、父の知り合いのお嬢さんだという人が何人も入れ替わり、立ち替わり現れて、屈託のない笑顔で勇太さんと呼ぶ。その度、彼女を忘れてない自分に気づく。

 彼女じゃないなら、どうでもいい、誰でもいい、抵抗することに疲れてきた頃父が最後に連れてきた女性と、とりあえず何回か会えと言われて仕方なく従っていた。

 ホテルに来たのも、母親が食事しようと無理やり連れて来たからで、まさか結婚式場の下見とは思っていなかった。強引な父のやり方に呆れて帰ろうかと思ったが、相手も来てるからと母親に懇願され、仕方なく少し付き合うことにした。


「白波莉緒です」

 海外で結婚したはずの彼女が、名前も変わらないまま、目の前にいる。どこから聞けばいいのか、何を話せばいいのか、この状況に自分でも混乱していた。


「…ねぇ、勇太さん、一度両家でお食事でもどうかって父が…勇太さん…?」

「……え、ごめん、なに?」

「勇太、どうしたの?ぼーっとしておかしいわよ」

 母は、一度あったきりの彼女に気づいてる様子はなかった。いっしょに食事をしてから2年以上たっているから、あの時の彼女だと気付くわけがなかった。

「まぁ奥様、勇太さんお疲れなのよ。最近お仕事お忙しいんでしょ?今日はごめんなさいね、わざわざ来ていただいて」

「いえ、そんな…2人のことですもの…ねぇ勇太?」

 返事をする気にもなれず、外を見ていると部屋をノックする音が響いた。

「失礼いたします、お茶のご用意ができましたのでこちらへどうぞ」

 披露宴の大広間に近い控え室に用意されたお茶とお茶菓子、案内した彼女は邪魔にならないように端に立っていた。


「細かいことは決まってからの打ち合わせになりますわね」

「そうですわね、うちの主人、吉日とかうるさいので日取りも含めて…」

「母さん、まだ何も決まってないから」

 苛立ちが隠せなくて強い口調で言うと慌てた相手の母親が話を変えた。

「それより勇太さん来週から北海道なんでしょ、いいわね〜麗衣も行きたいってうるさくて」

「じゃあ、ついていけばいいのに」

「いや、母さん、俺仕事で行くんだよ」

「わかってるわよ、冗談冗談。もう融通が利かないんだから、いいの?麗衣ちゃん、こんな堅物で…」

「いいんです、勇太さんはこのままで…」

「もう、かわいい!良かったわね、勇太。いいお嬢さんで」

 部屋の端にいて、気配を消している彼女も、この会話をどんな気持ちで聞いているんだろう

「…勇太、勇太!ちゃんと話聞いてるの?」

「聞いてるよ、でなに?」

「ハー、それを聞いてないって言うのよ。今から、ドレスを少し見ておこうって、どう?」

「今から?そんな急に言っても…」

「大丈夫よ、ねえ?」

母親が彼女に目配せした。

「はい、衣装部の方にご案内いたします」

 ドアを開けて、エレベーターへ誘導され乗り込むと女性陣はにぎやかに話し出した。一番後ろからボタンの前に立つ彼女の後ろ姿を見つめながら、どうしてホテルで働いてるのか…どうして俺から離れたのか…今すぐに彼女と2人で話したかった。



 

 

 

 

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