第4話 順調な恋だったはず

 大学での友達期間を経て、やっと付き合えることになった恋は、順調に進んでいた。

 就職して3回目の冬を迎えた頃、祖父が体調を崩して入院した。2人でお見舞いに行くと祖父も祖母も大喜びで、結婚は早いほうがいいなんて話をするから、焦るやら照れるやらで困った。でも幸せそうに笑っている彼女を見て…遠くない未来が見えたような気がしていた。

 

 祖父の退院後、お礼を兼ねて彼女を自宅に招くことになった。ついでと言う訳ではないが、いい機会だからと彼女を両親に紹介することにした。いずれかはと思っていたから、いいきっかけをくれた祖父に感謝して、彼女を迎えて6人で楽しい時間を過ごした…はずだった。


 それから2ヶ月して、急に父が祖父の後を継いで、代表になることが決まった。そのタイミングで、他の会社で仕事をしていた俺も父の事業を手伝うことになった。元々、そういう約束だった…祖父が倒れて、少し前倒しになったんだろうけど覚悟はしていた。ただ彼女に父の会社のことを伝えてなかったから、会社を辞めること以上に事実を打ち明けることに躊躇した。悩み抜いて、やっと話そうとした矢先、彼女の会社で問題が起きて、忙しいからしばらく会えないと連絡がきた。

 忙しくなった俺と彼女、離れる心配なんてなかったけど、会えない寂しさだけが募っていった。毎日来てたはずの連絡が3日おきになり、1週間、半月空いた夜、電話が繋がらなくなった。何かあったんじゃないかと彼女の会社に電話すると、2ヶ月前に退職したと聞かされた。

住んでいたマンションも引き払って、俺の前から消えてしまった。


 彼女の出したSOSに気づかなかった。挨拶回りや急に入る出張で、マンションにも帰れていなかったから、そもそも会えていなかったから…彼女がSOSを出したかどうかさえ、わからなかった。

 

 大学の友達に頼んで実家を教えてもらい、実家に行くと引っ越したあとだった。家族を巻き込んで、犯罪かもしれないと警察に相談したが、正当な手続きを踏んでいるから犯罪の要素は無いと言われた。

 八方ふさがりでいた頃、風の噂で彼女が海外で結婚したと、家族も一緒に移住したらしいと聞いた。本当か嘘かわからない内容に彼女の親友に確かめにいくと気まずそうな顔で頷いた。

 

 裏切られた俺は、何も信じられなくて、何もできなくなっていた。心配した母親に家に連れ戻されて、忙しい日常でなんとか自分を取り戻そうと必死だった。

 




 

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