第3話 大学時代の恋
ゼミで知り合う前から、知っていた。同じ学部で同じ講義を取っていたから会う回数もそこそこあった。仲良くなった男友達が彼女と同じ高校だったこともあって、話す機会が他の奴らより多かった。
彼女の人当たりの良さや物腰の柔らかさは、男女問わず人を惹きつける、どこに惹かれたかなんてわからないうちに好きになっていた。俺と同じようなやつが大勢いる中で、彼女のそばにいるのは大変だった。油断すると隣を狙うやつばかりでさり気なく牽制しながらそばにいた。
幸運にもゼミが一緒になってからは、自然にとなりにいた。少しずつ近くなった関係は友達止まりで、それでもその距離の心地よさから、それ以上望むことはなかった。
だけど、卒業も近づいて、会う回数が減っていった。卒業してから同級生として会える頻度は、たかが知れている…就職すれば今までみたいに会えなくなる…そんな焦りと誰にも奪われたくない自分の気持ちにやっと区切りをつけようと彼女を呼び出した。
「久しぶりだね、神くん」
「ああ、久しぶり」
ゼミの教室前の、生徒たちが集まる休憩室のベンチで待っていると、彼女が現れた。
「どうしたの、突然」
「うん…あのさ…白波に忘れ物、渡したいんだけど…」
「えっ、何か忘れてたっけ?」
覗き込むように目があって、慌てて目をそらす。
「正確には…俺の忘れ物かな…」
「神くんの忘れ物って…私何か預かってた?」
「あっ…いや…うーん」
「?…なんか、いつもの神くんじゃないみたい」
「そう?そんなつもりは…」
いざ本人を目の前にすると言葉がでてこない。
「…実は…私も神くんに忘れ物っていうか…渡したいものがあって」
「えっ、なに?」
「神くんが先でしょ」
「いや、白波が先で」
にぎやかな人の声が遠くに聞こえる中…いつもなら感じないような空気感に先に耐えられなくなったのは彼女の方だった。
「…これ!…大分遅れたんだけど…」
目の前に綺麗なブルーのリボンが掛けられた白い箱を差し出した。
「これって…俺に?」
「…うん…本当は誕生日に間に合わそうと思ってて」
「うん」
「テストや色々あってバタバタしちゃって、去年渡せなくて」
「でも、プレゼントくれたよね?」
「うん、間に合わないから、別のもの渡しちゃった」
「開けてもいい?」
「うん」
箱の中は、黒い革のキーケースで控えめにネームも入っていた。
「これって…もしかして手作り?」
「…うん、神くん、何でも持ってるし…母方の叔父さんが革職人でね、相談したらキーケースならなんとかなるって」
恥ずかしいのか、下を向いたままでいる彼女は普段見たことがない彼女だった。
「ちゃんと教えてもらって、仕上げもちゃんと合格もらって…だけど手作りなんて…よくよく考えたら彼女でもないのに重たいかなって…ヘヘ」
「そんなことない!すごい嬉しい!」
「出来上がって、すぐ渡したかったけど、神くん忙しそうだったし、誕生日も過ぎてて…そのうち渡すタイミングなくなっちゃって…でも神くんから連絡もらってチャンスかなって」
「ありがとう!大事にする」
「でもね、不出来なの、使わなくていいから」
一度上げた顔を赤くしながらまた下を向く彼女に少し期待した。
「ちゃんと使うよ、白波が俺のために初めて作ってくれたんだろう」
「…うん」
「俺の忘れものは…言わなきゃいけないこと言ってなくて。…卒業したらさ、なかなか会えなくなるから」
「……うん」
「会える理由が…欲しいんだ」
「会える理由…?」
「そう、俺が白波に会える理由…だめ?」
「……ん?どういう意味?」
「堂々と隣にいていい理由、白波の笑顔を独り占めしていい理由」
「…それって…」
「好きです、俺の彼女になってください」
「…私でいいの?」
「お前以外はありえないけど…?」
また、さらに赤くなった彼女がゆっくりと頷いて
「よろしくお願いします」
そういうと笑った顔で泣いていた。
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