五月雨


「空が泣いてる」

 明日香が窓の外を眺めながら言った。終礼を待つ間の教室は男子のふざけ合う声と女子達のなにやら盛り上がる会話でがやがやと騒がしい。

 明日香に言われて瑞樹は初めて気づいた。

 どんよりと重たそうな空から大粒の雨がたたきつけるように降っている。

「うわっ、最悪。傘持ってきてないよ。朝、家出た時あんなに晴れてたのに」

 瑞樹がそう言うと、

「天気予報で今日雨降るって言ってたよ」

 明日香が冷静に答えた。

「家出るぎりぎりまで寝てたからなぁ。天気予報なんて見なかったなぁ」

「ぎりぎりっていうか完全に遅刻してたじゃん。チャイム鳴り終わってから教室入ってきたじゃん」

「セーフでしょ。先生まだ来てなかったし」

「遅刻の基準が甘すぎるよ」

「明日香が真面目過ぎるんでしょ」

 近くで話していた何人かの女子がこちらをみて笑ったような気がした。以前、見かけた雨の中を濡れながら帰る明日香の姿がよぎる。瑞樹は気にせず続けた。

「傘持ってきてるんでしょ?帰り入れてよ」

「持ってきてないよ」

「え?雨降るってわかってるのに?」

「持ってくるの面倒だったから」

「明日香なんか変わったよね」

「そう?」

 いつも冷静な明日香の目が眼鏡の奥から瑞樹をみた。そして、

「今日は濡れて帰るよ」

といたずらっぽく笑った。

「まじか」

「私たち高校生だし、こういうのも楽しもうよ」

 先ほどより雨脚は強くなっている気がするが、濡れて帰ると覚悟を決めるとそこ悲壮感はない。きっと、大丈夫。明日香も自分も。

 終礼を告げるチャイムが鳴り担任が教室へ入ってきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

スズメの涙 凪 志織 @nagishiori

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ