鬼の日
「さっちゃんはB棟の校舎で食べられちゃったよ。今日は“鬼の日”だって知らなかったみたい」
花ちゃんが言った。
「ゆーいちくんも一時間目の授業が終わった後、鬼に連れさられちゃったって。たぶんもう食べられちゃっただろうね」
えみちゃんも言った。
「先生が今日は鬼が多いから休み時間は廊下に出ないようにって言ってたのに、ゆーいちくんいうこと聞かないで出て行っちゃったんだって」
ちかちゃんが言う。
三人の女子生徒が休み時間教室の後ろの方で集まっておしゃべりをしていた。
“鬼の日”は教室以外の廊下や校庭に人食い鬼が多数発生するので子供たちはその日一日教室でおとなしく過ごさなければならない。
ただ時々、鬼見たさに顔だけ廊下に出してしまって頭だけ持っていかれたり、鬼なんて怖くないと強がって先生の忠告も聞かずに廊下に出て行ってしまう子もいて、犠牲になる子供はあとを絶たない。
教員は全員鬼ごっこのプロ資格を持っているので鬼に捕まることはない。
学校では国語、算数、理科、社会、などのほかに鬼から逃げ延びるための実技指導も行う。
生き残るための手段とは、ただ走って逃げる。
それだけだ。
子供が人間の大人以上の体格と腕力をもつ鬼にかなうはずがなかった。
だから、学校では命を脅かす存在と対峙したとき迷いなく逃げろと教える。
午後の授業が終わりのチャイムが鳴った。
子供たちは教科書をランドセルにしまい、背中に背負った。
担任が教室の扉の前に立つ。
「じゃあ、みんなさようなら。気をつけて帰れよ」
下校のチャイムが鳴ると同時に学校中のすべての教室の扉が一斉に開かれた。
子供たちが教室から一斉に飛び出す。
「先生、さようなら」「先生、また明日ね」と口々に言いながら子供たちは教室から勢いよく飛び出していく。
何百人の子どもたちが校門めがけて走っていく。
校門を抜ければそこは鬼が立ち入れない安全地帯となる。
どこかで鬼の吠える声がする。
子供たちは生きて明日も学校に登校するために校門を目指し駆けていく。
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