第三章

第15話

 生暖かい夜風が吹き抜けた。頬をゆっくり撫でていく。

 小さなベランダをいっぱいに風が伝っていく。この時期は風が気持ちいい。

「梨花。あなた、何を目指すの?」

 桜が尋ねてくる。桜は何故か最近になって本名である梨花と呼んでくれるようになった。

「うーん。普通に会社員かな。」

 私が、周りに話していることと同じことを話す。

「建前じゃなくて、本音。梨花、隠してるでしょう?」

 また、桜は私の心を見透かす。桜は一体どんな力を持っているのか。

「政治家。貧困層の支援に力を入れて、私みたいな人をなくしたい。」

「ふふ。やっと教えてくれた。今日はやけにあっさりしてたね。」

 桜が不気味に笑う。これはうれしい時の笑い方だ。

「まあ、桜ならいいかなって。」

「あはは。ありがとう!」

 こうして、また桜に打ち明けてしまった。桜の過去を何一つ知れない私としては、不満がたまる一方である。

「桜は何を目指すの?」

 ここぞと聞き返す。桜は少し頷くと、

「うーん。じゃあ、料理人。自分のお店が欲しいかな。」

 と返す。初めて知った桜の言葉。

「応援するよ。」

 どことなく嬉しかった。

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