第12話


「桜。何してるの?」

「え? あ、あぁ、あはは。」

 翌朝。というよりも早朝。桜は一人でごそごそと何かを準備していた。

「桜。ちゃんと説明して?」

「あぁ、うぅ・・・」

 桜は珍しく縮こまり、下を向いた。

「桜?」

「え、えっと。ひ、秘密・・・」

 桜は、小さくつぶやいた。いつもの強気な態度はなく、顔は青ざめている。

「そう。気をつけてね。」

 こういうのは、何も触れてはいけない。桜には、桜の過去があり、今があり、秘密がある。干渉してはいけない。私がそう言うと、桜はまた小さくなって言った。

「・・・ありがとう。」

 桜は、またごそごそ準備を始める。これは、桜の問題だ。私が干渉するべきではない。それでも。

「桜、必ず帰ってきなさいね。」

 桜は私を見つめて。

「・・・うん。行ってきます!」と言う。だから私も。

「行ってらっしゃい。」と言う。

 扉の閉まる音。まだ日の光のない部屋。私には途方もなく遠く感じられた。




 おはよう、桜。

 私はまだあなたのことを知らないけれど。小さなあなたには、まだ世界は厳しいのでしょう?

 そっと、帰ってきた桜の頭をなでる。


 小さな涙を、桜は流していた。

 彼女のあの苦しそうな顔を、私は忘れることができない。


 これは、小さな彼女の冒険だ。私は、まだ彼女を支えられない。


 桜の顔が、少し笑う。

 小さく、あざ笑うように。 


 ふと、小さな笑い声が聞こえた。

 私は、ふっと寝てしまった。


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