第9話

 翌朝。また、べっとりと張り付いた汗が私を締め付ける。朝日は強く私を照りつけ、肌が薄く焼けて行く。

「桜?」

 私の上に抱きつくのは桜だろう。か弱い体はまだ薄く震えている。彼女は眠れたのだろうか。

「うぇ? 朝なの?」

「うん。朝だよ。」

 桜をゆっくり起こす。

 まだ、寝ぼけている彼女はふらりふらりと立ち上がる。

「学校に行かなきゃ…」

「今は治験中だから行けないよ。」

「あれ? そうだっけ?」

 桜は治験を受ける時に大体情緒が不安定になる。記憶も安定してくれない。

「早くベッドに戻って。」

「はーい。」

 今日も一日中自習になる。時間を浪費する毎日は、まだまだ続く。

「ナンちゃん、怖いよー。」

「はいはい。」

 怖がっている桜を宥めながら、身支度をする。


 コンコン

「はーい。」

「すみません。本日の体調の記録をつけさせてください。」

 そう言って、医者は体温計を取り出す。少し黄ばんだ、独特の消毒液に匂いがする。

 鼻を刺すような匂いはあまり好きじゃない。ちなみに、桜はこの匂いが大の苦手だ。

「桜、我慢して。」

「うぅ。ナンちゃん、助けてぇー。」

 いつも鼻を抑えながら体温を測る。あんまり意味はないと思うけどね。

「はーい。いつもありがとう、二人とも。じゃあ、あとは好きにしてね。」

 好きにしろ、なんて医者は言っているけれど、この医者は勉強道具以外渡さない。資金援助だけの関係なので別に問題はないが、正直なところ非常識な医者である。

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