第5話


 コンコン

「梨花さん入りますよー?」

 そう言って、医者が入ってきた。白衣は少し皺が寄っていた。

「もう9:00ですよ。はやく起きてください。」

 カーテンの中からは、白い光が切り込む。ようやく朝も終わりそうだ。

「ああ、そうだ。体温だけ測らせてください。」

「はい。」

 体温計は少し時間がかかる。待ち時間はゆったりと時が流れている気がする。

「37.3度です。」

「はい。ありがとうございます。」

 また、足早に医者は去っていく。おぼつかない足跡が、日々を加速させる。

 また、胸が焼ける。彼女のせいだ。


 ◯─────◉


 蛍光灯で照らされた古い廊下を進むと、一気に日が差してくる。食堂は日が差す南側にあるらしい。

「うちの病院食どうよ?ナンちゃん。」

「すごく、種類が多いね。パンも麺もある!」

「へへへ。そうでしょ。」

 病院の食堂は、すごく明るい。誰もが笑顔になれる、そんな場所だ。

 桜さんは胸を張って宣言していた。彼女の背は小さく、私よりも十センチは小さい。かわいい。

「ありがとう。」

「へへ。さ、早く食べよう!ナンちゃん。」

「うん…」

 食堂はバイキング方式だ。とは言え、好き勝手選べるわけではなく、メインやサラダなどで分かれた中から好きなものを選ぶことができる。ようは組み合わせだ。

「あ! …ん? ふむふむ… うーん。」

 桜が楽しそうに選んでいる。表情がコロコロ変わる。かわいい。

「早く!早く!」

「はーい!」

 私が悩んでいると、桜に声をかけられた。どうやら待たせてしまったらしい。

「ふふふ。」

「? どうしたの?」

「何でもないよ。…かわいい。」

「?」

「さ、食べよう!」


「「いただきます!」」


 窓からは元気なお日様が覗く。久々だ。こんなにも清々しい1日は。

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