第4話

「ねえねえ。梨花ちゃん!」

「う、うん。」突然、隣にいた子供に話しかけられた。見るからに怪しい私とわざわざ話そうと思う人などいないと思っていた。

「どうして、道で倒れてたの?」

「え、ええと。あ、えっと。」

「お腹が空いてたんだね?ちゃんと食べなきゃだよ?」

「え?」

 何が起きているのかわからない。彼女は、少し顔を赤めながら突然そうつぶやいた。戒めるような気持ちも感じられたが、何より楽しんでいるような気がした。しばらくして、医者の男が戻ってきた。

「こら、桜。患者さんなんだから、からかっちゃだめだろ。」

「ちぇ。つまんないのー。ねえねえ梨花!驚いた?驚いたよね?」

「う、うん。」

 なんとなくからかわれたのは分かったが、何が起きたのかはわからなかった。

 彼女は優しく頷いて、満面の笑みで笑った。

「やったあ!あはは!」

 窓から、暖かな西陽が刺してくる。どこか暖かな光だ。でも、少し眩しかった。

 

 ◯─────◉


 深緑色が辺りから差し込む。カーテンに彩られた光は、幻想を映し出す。

 まだ朝も早いのだろう。

「ふふふ。起きた?梨花ちゃん。」

「わっ!」

 誰もいないはずの隣から、あの陽気な声が聞こえてくる。頬を赤く高揚させて、私の布団に潜り込んできた。

「あはは!やっぱりナンちゃんは面白いなあ。」

「その、ナンちゃんって何?」

 そう言うと、彼女はきょとんとして言った。

「梨花ちゃんのことだよ?名前がわからないから、何ちゃん。」

「私は梨花だよ。」少し、怒って言う。

「え?あなたに名前はないでしょ?」彼女は、そう呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る