第22話 クズ教師の完全敗北。一生制裁を加えられる。

 私――油婆 実和子は人を苦める見るのが大好きだ。


 だから美島 心春のこともいじめてやった。私の快楽を満たすためだけにねぇ。


 いい獲物だったよあれは。そもそもアイツが入院をして担任を退いたのだって私がやってやったんだ。


 体育館の倉庫に呼び出して、椅子で脚を殴りつけてやったらすぐに骨折しちゃってさぁ……。ダッサ。


 私は校長に、美島が担当してたクラスを私に任せてくれと交渉した。だって面白いだろ? 美島が大切にしてた生徒たちが、私に蹂躙されるさまを指をくわえて見てるしかできないなんてさぁ……!


 デブの校長は私に逆らえない。私の両親にごまをすりっぱなしだがらなぁ。あの母親クソババア父親クソジジイもくたばる前にちったぁ私の役に立ったってことだ。


 あのジジイとババアは教育界だけじゃなくて、もっと色んなとこに精通しているだ……それこそ警察なんかにも圧をかけられるはずだぜ?


 だから私はすぐに釈放されるだろう。こんなとこで終わるなんてつまらねぇからなぁ。あぁ、もっともっと弱者を踏みにじって遊びたい――


 しかし、それから何年たっても、私は釈放されることはなかった。


「なんで、なんでだよッ……! あのジジイとババア、私を裏切りやがったな!!! 死ね! 死ねよ!!!」


 刑務所で、今日も私はふざけた日々を送らされる。


 ハゲのウザい刑務官が、私にニュースを見せてくる。新聞やネットなど、様々なメディアのものが存在する。


 特にネットには、私を批判する声が殺到していた。


 ――人間の皮を被った悪魔、死んで償え。――死んでも一切世の中のためにならない。――生まれて来たこと自体が大罪。


「てめぇはそれだけのことをしたんだ。死んで楽になるなんて甘っちょろいこと考えんじゃねぇぞ。あぁん? てめぇが不幸にしてきたやつらの人生を一生かけて償うつもりで更生しやがれ!!!」


 ハゲが睨みを効かせてやかましい声で叫ぶ。私は人間を見下すのが好きなんだ。される側になるなんて耐えられない。


「ああああぁぁぁ!! うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい! うわああああぁぁぁ!!」


 ――こうして油婆は、これからもずっと自分が他人にしてきただけのことを罰として受け続けるのだった。


 #


 油婆が警察に逮捕された後、俺たちは事情聴取を受けていた。


 俺――新木 守の担当は油婆に殴りかかられたときに助けてくれたグレーアッシュのロングヘアをした女性教官、信条 美琴みことさんだった。


 こうやって改めて正面から見るとすごい美人だ……それになんか、誰かの面影を感じるというか……。


 俺は信条さんに、今まで見て来た油婆の横暴な行為、みんなから聞いた話。そして新聞部の活動中に見たという体にしている家庭科室での出来事をありのままに伝える。


「事情聴取はこれでお終いよ。協力ありがとね」


 そう言って、信条さんが俺を外まで送り出してくれる。


 しかし、俺はまだ不安だった。本当にこれで終わるのか。油婆の両親はすごい権力を持ってるんだろ? 警察にも圧をかけたりできるんじゃないだろうか……。


 俺は転校前の高校で、そんな理不尽を嫌というほど味わった。


 俺は、いじめられてる人を助けたかっただけなのに……俺がいじめの首謀者にさせられて……いじめをしていた張本人は、いじめられていた人物を救った正義のヒーローになって。


 俺は悪人として学校も家も追放された……。また、あのときみたいに――


 と、ふいに肩をポンと優しくたたかれる。


「大丈夫、きみが話してくれたことはしっかり報告するから。あんな悪人を絶対野放しにはさせないし、間違えてもきみたちが責められるようなことにはさせないよ」


「信条さん……」


 署から出たとき、彼女は今度は俺の背中にポンと手をのせてきた。


「それと、ここからは警官としてじゃなくて、ひとりの姉としての言葉なんだけど。妹を、信じてくれてありがとね」


「えっ……?」


 そう言って、グレーアッシュのロングヘアを揺らして署に戻って行く信条さん。俺はそのとき、彼女と対面で座ったときの既視感の理由を知った気がした。


 #


 署を出ると、事情聴取が終わったと思われる部長と陽平、そして犬養先生が出迎えてくれた。


「あの、部長? 部長ってお姉さんとかいます?」


「にゃっ? いるよ、てか新木くん、事情聴取受けたでしょ」


「まぁ、そうなんですけど……」


 信条 真琴先輩は、家庭科室前にいたときとは別人のような、お気楽な糸目部長に戻っていた。


 そんな部長に陽平が問いかける。


「てか部長さんどこ行ってたんすか! 家庭科室から脱出したあたりからいなくなっちゃうし……」


「にゃははっ、まぁ色々とね~」


 何というか、相変わらずつかみどころのない人だ。俺は姉の信条さんが妹を信じてくれてありがとうと言った理由がわかった気がした。


 多分部長、人からかなり信用されにくいんだろうな……正直、俺とエリナさんだって初めて会ったとき怪しいって会話してたし。


「たぶん信条 真琴は、そのとき私に連絡してたんだろうな」


 と、そこに犬養先生が相変わらず黒のショートパンツに白衣の格好で近づいてくる。


「いや、実は作戦前から信条 真琴に頼みごとをされててな。今日の夜ケガ人が出るかもだから学校前で待機しててほしいってさ。んで、学校前の居酒屋で新木 守の叔母さんと串カツ食ってた」


 だからあのとき麻里さんたちがいたのか……。


「というか部長、作戦会議のときそのことも教えてくれればよかったじゃないですか」


「いやー、それ言ったら新木くんに反対されるかと思って」


「えっ……?」


 なぜか犬養先生が俺の前まで歩いて来る。


「さて、要求も飲んだことだし、そろそろ対価をいただこうか」


 えっ、えっ……?


「あー……協力してもらう代わりに、犬養先生には新木くんの筋肉を好きなだけ触っていいって取引をしたんだにゃ」


 なっ、なっ、なんてことを……。


「ふふふっ、時は来た……私の秘められし右腕が、新木 守の服の中に封印された筋肉の感触を解き放つときがな」


「オワタ……」


 俺はその後、事情聴取が終わった麻里さんに犬養先生が止められるまで、彼女に筋肉を触られ続けた。

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