第21話 クズな担任教師をざまぁする。③

 美島先生を背負った守と、懐中電灯で先を先導する平沢先生を先に行かせてから俺――池神 陽平は煙が立ち込める家庭科室内に視線を凝らした。


 俺と並ぶように、家庭科室前の廊下には水無月と静原、エリナちゃんも立っている。新聞部の部長は姿が見えないが、家庭科室の入り口を出るところを見たからおそらく無事だろう。


 煙の中から、包丁を両手に持った油婆が狂った笑みを浮かべながらのそのそと近づいて来た。油婆は包丁を振りかざし、こちらに突撃してくる。


「うらあぁ!」


 エリナちゃんが持ていたフライパンを振り回し、油婆の包丁を吹き飛ばす。しかし油婆は包丁を失ってもそのまま俺の方へ殴りかかってくる。


「死ねよおまえらぁ……生徒は担任のいうことを大人しく聞いてりゃいいんだよ!」


「ぐっ……」


 俺は両手で攻撃を防ぐが、ものすごい衝撃が加わってくる。


「うるせぇんだよ……俺はお前を一度たりとも担任だなんて思ったことはなかった。俺たちの担任はずっと美島先生なんだよ……!!」


 俺は思い切り力を加えて油婆を突き返した。しかしあまりの衝撃に立ち眩みがする。


「池神くん、大丈夫……!」


 静原が駆け寄ってくる。水無月も反対側から俺の肩を支えてくれた。


 そのとき……家庭科室から物すごい爆発音が鳴り、煙をまき散らして器具や椅子、扉までもが廊下に吹き飛んでくる。


「まずい、いったん離れよう……!」


 俺たちはひとまず安全圏に避難した。


 守、美島先生のことを頼む……。


 #


 背後からチェーンソーの音が獣の雄たけびのように響いている。


 鎌背が油婆と戦っている間に、俺は美島先生を連れて全力で走る。


「はぁ、はぁ……あった、出口……!」


 夜間なので閉まっている扉を平沢先生は両手で開く。


 俺たちが校舎を脱出したとき。前方からものすごい勢いで車のライトが……かと思うとその車は俺たちの前でブレーキをかけて止まった。


「守っ……大丈夫か!」


「麻里さん……なんで!?」


 車の窓から顔を出したのは麻里さんだった。さらに助手席から犬養先生も降りてくる。


「話は後だ新木 守! 早く美島先生を車に!」


 フルフラットにした麻里さんの車の後部座席に、美島先生を横になれるように乗せる。彼女は苦しそうだったが、意識は無事のようだ。犬養先生が緊急で手当てを行う。


「守……大丈夫だったか!」


 校舎から水無月さんと静原さん、そしてエリナさんと陽平も駆け寄ってくる。どうやら無事に脱出したみたいだ。


「あぁ、みんなのおかげだよ。美島先生も無事だ」


 俺が麻里さんの車の方を指差すと、みんなは先生の方へ駆けて行った。


「よかった、美島先生……!」


 水無月さんと静原さんは先生に抱き着いている。陽平も涙を流していた。


 校門からはいくつもの灯りとサイレンの音が入り込んできた。警察と消防が到着したようだ。


 家庭科室を中心に燃え始める文化棟の校舎が鎮火していく。警察の人たちが車から降りてきて、俺たちは彼らに状況を説明した。


 そんなときだ。


「おい、そっちに行きやがったぞ!!」


 鎌背の叫ぶ声が聞こえた。


「えっ……?」


 ふと振り向くと、後ろから油婆が殴りかかってくるところだった。


 その刹那、俺は横から突き飛ばされる。


 グレーアッシュの長い髪を揺らし、1人の女性教官がそのまま油婆の攻撃を受け止めた。


「大人しくしてなさい!」


 女性教官はそのまま油婆を捉えようとする。しかしその瞬間。


「うわあああああぁぁぁ! 殴られた! こいつに殴られたあああぁぁ! 怪我した痛い痛い!! 誰か! 誰か警察呼んでちょうだい!!」


 油婆が後退ると思い切り後ろに倒れ込んで、わざとらしく体を押さえる仕草をする。


 ここまで来て被害者面かよ……てか、お前が今指差してるのが警察なんだよ。


 と、いまだに喚き散らすヒステリッククズ教師に鎌背が近づくと、彼は油婆の胸倉を掴んで持ち上げた。


「いい加減うるっせぇんだよ虚言ババア。殴られるっつーのはこういうのを言うんだよ!」


 そう言うと、鎌背は油婆の顔面を拳で思い切り殴りつけた。


「ひっ――ぎゃああああああぁ!」


 鈍い音が響き、油婆はそのまま地面に倒れ込む。


「ひっ、いや、あっ、あ……」


 油婆が今までに見せたことのないような情けない表情で無抵抗になる。そんな油婆をさっきの女性教官が今度こそ捕まえた。


 鎌背も警察の人たちに取り押さえられていたが、彼は満足そうな表情を浮かべていた。

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