第23話 クズ教師に貶められたみんなの誤解が解ける。

 後日。緊急で全校朝会が開かれた。


「えー、このたび一身上の都合により、油婆 実和子教諭が退職されました」


 体中についた贅肉で重たそうな、いかにも性格の悪そうな顔をした校長が壇上で話し始める。


「一身上の都合? ふざけんなよ!」


「ニュースで出てんだよ! 油婆が逮捕されたってな!」


「教師に対するいじめをしてたこともずっと隠してたんだろ!」


 体育館内はざわめきだすと、校長は逃げるように本当のことを一切話さず撤退していった。


 館内は油婆や、油婆の暴力行為を隠蔽しようとする校長への不満があふれ出た――


 全校朝会が終わり、俺はホームルームが始まる前に飲み物を買いに行く。廊下を歩いている最中、ふと足が止まる。


 校内の掲示板に、新聞部が刊行している校内新聞の2024年6月号が張り出されていた。


 そこには陽平やエリナさんが油婆に貶められていたこと、彼らには一切非がないことなどが書かれている。俺が前の高校で暴力事件を起こしたという噂が、油婆の虚言だということも。


 美島先生が油婆のせいで怪我をして担任を降ろされた事実も記されている。


「どうかにゃ? 結構いい出来でしょ」


 新聞を見ていると、部長が後ろから声をかけてきた。


「はい……! これできっと、油婆に貶められたみんなの誤解が全校生徒から晴れると思います」


 教室に戻る途中、隣の教室である2年2組の教室をのぞくと、陽平の前にクラスの生徒たちが集まっていた。


「ごめん池神くん! 今までずっと誤解してた」

「サッカー部のマネージャーに手を出したっていうのも全部嘘だったんだな……」

「拙者……池神殿に申し訳ないことをしたでござる……うおおおぉぉ!」


 きっと新聞部の校内新聞で誤解が溶けたのだろう。なんか語尾ござるの変な人もいたけど……まぁいっか。


 俺の所属する1年1組に到着すると、陽平と同じくエリナさんの周りでも同じことが起こっていた。


「ごめん……今まで金堂さんのこと不良だとか思ってて」

「全部、油婆に仕組まれた嘘だったんだね」

「むしろ油婆を逮捕させるために協力したんだよね、カッコイイよ!」


 俺も暴力事件を起こしたという嘘の噂に対して謝られながら、なんとか自分の席へと戻り腰を掛ける。前の席で談笑してた水無月さんと静原さんが話しかけて来た。


「やったね新木くん、わたしたちの大勝利だよ」


 水無月さんが手を差し出してくる。


「あぁ、やったね」


 俺も彼女の手を握り返すのだが……。


「あっ……」


 水無月さんは急に頬を赤くして、手を引っ込めてしまう。きっと先日、あの作戦の探索中に手を握ったときのことを思い出して恥ずかしくなってしまったのだろう。


 そんなことをつゆ知らず、静原さんは手をパーにしてこちらに差し出してくる。ハイタッチを求めているのだろう。俺も手を開いてはじき返す。


「終わったんだね、やっと」


「うん、俺たちみんなで終わらせたんだ」


 やがてチャイムが鳴り響く。教室の扉が開き、1人の女性教師が入って来た。


 鮮やかな黒髪のロングヘアと、ヒラヒラしたワンピースの裾を揺らし、教壇へと向かって歩く。


 凛とした瞳の美人顔で、それでいて表情には生徒たち一人一人を思いやる優しさが溢れ出ている。


「改めて、今日からみんなの担任を務めることになった美島 心春ですっ。初めましての人も、去年から私を知ってくれてるみんなもよろしくね」


 美島先生おかえり! そんな言葉が教室中から飛び交う。


 油婆が逮捕され、美島先生が我々2年1組の担任となったのだ。


 水無月さんと静原さんは涙を流している。鎌背なんか、机に顔を突っ伏して震えていた。


 #


「んじゃ、俺たちの完全勝利を祝ってカンパーイ!」


 陽平が音頭を取り、パーティーが始まる。


 今日は作戦会議をしたアジトでもある俺の部屋で、打ち上げを行うことになっていた。


 部屋にいるメンバーは陽平、水無月さん、静原さん、エリナさん、信条部長、平沢先生、美島先生…………そして麻里さんに犬養先生。さらに部長のお姉さんも、あくまでも警官としてではなくプライベートで参加していた。


 一応鎌背にも声をかけてみたのだが、ヤツは来なかった。ちなみに鎌背は作戦の日、油婆に説教を受けて居残りをさせられていたらしい。


 たまたま俺たちが油婆を倒すための作戦を立てていることを知り、学校に潜んでたんだとか。まぁ、あれだけ俺たちに付きまとってたからな。あのチェーンソーは、油婆をおどすために用務員が草刈りに使っているものを口実をつけて借りて来ていたらしい。


 もしかしたら、美島先生が油婆から虐待を受けていたことも、あいつは知ってたのかもしれない。


 ――ピンポーン


 と、ふいにインターフォンが鳴った。どうやら打ち上げのために頼んだ出前が届いたみたいだ。


「あっ、新木先輩どもー。熱いんでお気を付けて」


「あぁ、ありがとう!」


 出前を届けてくれたのは今日も小宮さんだった。彼女から出前を受け取り、ここから本格的に打ち上げが始まるのだ――

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