第18話 夜の学校を水無月さんと2人で探索。

 完全下校時刻をとうに過ぎ、教職員たちも帰路につき始めている。


「現在、油婆がどこで何をやってるのかはわからない。そのため、みんなで新聞部の作業をしている体で、手分けしてヤツを探し出してほしいのにゃ」


 俺たちは2人1組のペアを作ることにした。念のためそれぞれのペアに男性や大人が1人は居た方がいいだろうということで、池神と静原さん、平沢先生とエリナさん、そして俺と水無月さんのペアで探索を始めることにした。


 新聞部部長の信条先輩は司令塔として、鍵をかけた部室の中でそれぞれのペアといつでも通話を繋げる状態でスタンバイしている。


「今日、私は怪しまれない限界まで職員室に残って業務をしてたんだけど、油婆は本当に最後まで残ってた。だから、きっとまだ校舎の中にいるはず」


 平沢先生の言葉に各々頷いたり返答したりして、ペアで動き出す。


「うわっ……夜の学校って思ったより暗いんだね」


 俺と水無月さんはみんなとひとまず別れ、自分たちが担当する箇所の探索を始める。


「そうだね……俺たちが担当するのは文化棟の2階から3階だ。まずは2階の端から見て行くとしたら……理科室か」


「理科室……!?」


 それからなぜか、水無月さんは急に口数が減ってしまった。かと思うと、なんか度々俺の手の甲をツンツンと刺激してくる。


 な、なんだ? 暗くてよくわからないけど、もしかして……。


「水無月さん、こういうの……苦手?」


「……!! だ、だってぇ……怖いものは怖いんだもん……」


 ふざけたことを言うヤツには男だろうと果敢に言い返す水無月さんが、やたらしおらしい声でつぶやく。


 これが、ギャップ萌えというやつなのか……!


 俺は今だに俺の手をツンツンとつついて来る水無月さんの手を握った。


「……!!」


「ごめん、安心してもらえたらと思って。嫌だったら離すよ」


「いっ、嫌とか……そんなことないから! …………ありがとね」


 暗闇の中、水無月さんの手の柔らかさと暖かさが伝わってくる。


 そうして俺たちは理科室の目の前まで来た。


 教室内は真っ暗だ、誰か人が居る気配はない……。


「一応……そっと入ってみるか。水無月さん、大丈夫?」


「うん……行く」


 俺は水無月さんと手を繋いだまま真っ暗な理科室の中に入る。彼女は俺の腕に顔をうずめてしまっている。


 理科室には人体模型なんかも置いてあるし、より怖い場所だ。水無月さんのためにもさっさと調べて出よう。


「特に変わったことはなさそうだな。出るか」


 と、理科室から出ようとしたときのことだ。


「ちょっ、ちょっと待って。なんか、足音聞こえない……?」


「えっ……?」


 ――カツン、カツン……。


 耳を澄ませると、確かに足音が聞こえた。だんだんと大きくなってくる。


「まずい、こっちに来る! いったん隠れよう!」


「えっ、ちょっ……新木くん!」


 隠れると言ってもいい隠れ場所があるわけでもなく、結局俺たちは2人で教卓の下に身を潜めた。


「やば、足痺れてきたかも……うわっ!」


「えっ……」


 と、水無月さんが足を伸ばそうとするとバランスを崩し、そのまま俺の体に倒れ込んでくる。


 全身に柔らかい感触と体温が……。暗くてよく見えないけど、すぐ目の先に水無月さんの顔があるんだろうな……という気配を感じる。


「ごっ、ごめんっ、新木くん……」


「大丈夫……それより足音が!」


 瞬間、閉めていた理科室の扉が開く。俺は教卓の下の隙間から、入り口の方へ目を凝らす。


「……んだよ、誰もいねぇじゃねぇか」


 どこかで聞いたことのある声が室内に響いた。


 水無月さんが俺の耳元で囁く。


「ねぇ、あれ、鎌背じゃない?」


「えっ? あぁ……! 確かに」


 言われてみると、確かに同じクラスの鎌背の声だと気が付く。


 彼は扉を閉めると理科室を出て行った。


「いててて……。新木くん、ほんとごめんね……!」


「大丈夫だよ。そっ、それより水無月さん……足は大丈夫?」


「う、うん……だいじょぶだいじょぶ」


 なんとも気ごちない感じになってしまったものの、俺たちは無事理科室を脱出した。


「なんで鎌背が居たんだろ?」


「さぁ……あいつ去年も同じクラスだったけど、何考えてるかわかんないから。……あっ、でも、どうでもいいけどさ。鎌背のヤツ、絶対美島先生のこと好きだったと思う」


「美島先生って、油婆の前に水無月さんたちの担任だった?」


「そっ」


 そんな会話をしながら3階に上がり、家庭科室の前まで来たときのことだ。


「新木くん……ここだけ電気ついてる」


「ほんとだ……」


 水無月さんの言う通り、なぜか家庭科室は電気がついているのが外からでも見て取れた。入口の小窓からそっと中をのぞくと、俺はヤツの姿を発見した。


「いた……油婆が今一瞬見えた、あいつ、ここにいるんだ!」


 中からは、なにやら激しい物音が聞こえてくる。


「ねぇ、なんかヤバいんじゃない?」


「あぁ……けど、まずは部長に電話しないと」


 作戦開始前、部長から言われている。もし油婆を見つけた場合は、かならず突撃する前に部長に連絡するようにと。


『わかった、今すぐそっちに向かうにゃ。ボクが到着するまで絶対開けちゃダメだよ。新木くん、他のみんなにも家庭科室に来るように連絡して――』


 部長との通話が途切れた。俺は、他のすべてのペアにも通話を繋げた。

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