第5話 クズな担任教師をざまぁする。②
初日の授業もすべて終わり、放課後がやってくる。
帰りも水無月さんや静原さんが声をかけてくれたのだが、俺はこのあと職員室に用事があったため、2人には今日のお礼を告げてから教室で別れた。
「失礼します」
職員室に入ると、目的の教師である
平沢先生は日本史担当の教師だ。転校生の俺はまだ資料集を持っていなかったため、放課後に受け取りに来ることになっていたのだ。
「平沢先生、資料集をもらいに来ました」
「ん~? あ、転校生の新木君ね。ちょっと待ってて、今探すから」
平沢先生は若めの教師で、20代前半くらいだと思われる。
暗めの茶色に染めたミディアムヘアは肩のあたりでウェーブを描いており、パーカーにショートパンツというラフな格好をしている。
彼女の存在を一言で表すなら、事なかれ主義とか日和見主事とか……そんな感じだ。
そんな、どこか冷めた性格と覇気のない目のせいで見落としがちだが、かなりの美人だと思う。
「ん~、どこやっちゃったかな、新木くんの資料集……いだっ!」
「ちょっ、先生大丈夫ですか!?」
なんかゴンっ、というすごい音が聞こえたと思ったら、先生が机に頭をぶつけている。
この先生……なんかこういうドジっ子属性的なものを持ってるらしいのだ。授業中も、たびたび教壇から落ちそうになったり、ページをめくろうとして教科書を破いたりしていた。
「大丈夫大丈夫……あっ、資料集あった」
そう言って、平沢先生は頭をぶつけた衝撃で棚から落ちて来た資料集を俺に手渡してくれる。これが怪我の功名というやつか……。
「あ、ありがとうございます……」
「ん~、それじゃ、なんかあったらまた来てちょうだい。……いててて」
と、資料集を受け取って帰ろうとしたときのことだ。
「おい、何とか言ったらどうだ!
職員室内に男の野太い声が響き渡った。声がした方を見ると、クズ担任の油婆 実和子と、生徒指導部長だとかいう体育教師の男が1人の女子生徒を責め立てていた。
女子生徒の方は、同じクラスの金堂 エリナだ。
朝、俺が油婆の中傷のせいで何も言えなくなっていたとき、机を蹴り飛ばして空気を変えてくれた金髪の女子生徒である。
「なんなんですか、あれ……」
俺が問いかけると、平沢先生はバツが悪そうにうつむいて、小声で話し出す。
「いつものやつでしょ……油婆のクソババアが被害者面して、目を付けた生徒を生徒指導部長に叱らせる。部長の郷田はまっすぐだけど底抜けのバカだから、油婆の言葉を鵜呑みにしてババアの思い通りになる」
「そんな……」
そんなの、胸糞悪すぎるだろ。
「キミ、油婆のクラスなんだっけ。気を付けた方がいいよ、あいつに目を付けられたら……って、ちょっと」
頭に血がのぼっていた俺には、平沢先生の忠告はすでに届いていなかった。
#
「はい、それで……金堂さんは私が転校生の紹介をしている最中に、急に騒ぎを起こして、私に殴りかかろうとしてきたんです! うぅ、うわあぁぁぁあ!!」
油婆は両手で顔面を押さえ、大袈裟に嗚咽をもらす演技をする。それに便乗し、生徒指導部長の郷田は金堂さんを怒鳴りつける。
「だから、アタシは何もやってねぇって……!」
金堂さんはしびれを切らしたように油婆に掴みかかろうとする。その前に、俺が口を開いた。
「全部嘘ですよ。油婆先生の」
その一言で職員室中が静まり返る。
「おい、なんだお前は! 邪魔をするな!」
すぐに生徒指導部長の郷田が大声でまくし立ててくるが、ここで黙るわけにはいかない。
「油婆先生は、転校生の紹介と言って俺のことを暴力事件を起こしただとか、クズぼっちだとか言いました。クラスの生徒達がざわつき始めて、俺が何も言えなくなっている時に、金堂さんはそいつらを静かにさせようとしてくれたんですよ」
俺の言葉に、職員室中がざわめきだす。
「いい加減なことを言わないでちょうだい!! そんな証拠、どこにあるっていうんですか! 酷い! ただでさえ私は不良のせいでノイローゼになっているのに、そんないい加減な嘘で私を陥れようとするなんて……」
油婆がまたわざとらしく泣きまねをする。
そして、俺と金堂さんにだけ見えるように口角をこれでもかと尖らせて、悪趣味な笑みを浮かべる。
まるで、証拠がないのだからお前らの負けだとでもいうように……。その瞬間だった――
「証拠ならありますよ」
職員室に声が飛び込んでくる。扉の方を見ると、なぜか水無月さんがいた。さらに、後ろから入って来た静原さんが持っていたスマホを再生する。
『えー、今日は転校生を紹介します。前の高校で暴力事件を起こし、身寄りもなくなったクズぼっちの新木 守くんです。みなさん可哀想なので仕方なく仲良くしてあげましょうね』
油婆の教室での横暴な振る舞いが、動画で再生される。どうやら、彼女たちは今朝の出来事を動画に収めていたようだった。
「なっ、なっ、なにこれっ! そんな、私がっ!」
油婆はこれでもかというほど取り乱している。
「なんだこれは……! 油婆先生、詳しく話を聞かせてもらいますよ」
「まっ、待って、あぁぁ!」
油婆は郷田に連れていかれる。平沢先生が言っていた、部長の郷田はまっすぐだけど底抜けのバカっていうのは本当だと思った。
「へっ、ざまぁ」
金堂さんがふっと微笑んで笑みを浮かべる。
俺もそれに答えるように笑みを浮かべた。
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