第12話 海の町レゾール

およそ百年前、暗黒の時代。

ラインハルト城に近い海の町、レゾールは度々モンスターの襲撃を受けていた。


町は破壊され、襲撃のたびに人の命が奪われていった。

それでも住民が離れなかったのは、ラインハルト城の海の玄関口だったからだ。

ラインハルト王は城と人々の生活を守るため、兵士を派遣してモンスター襲撃のたびに、激しい戦闘を繰り広げたのだった。


しかし、もうそれも限界というときに、新たな海の魔物が現れた。

シードラゴンだ。


このシードラゴンにより、レゾールとラインハルト城は未曽有の危機に直面する。

そのとき現れたのが──初代勇者リクレインだ。


 エントデルンはレゾールの広場にある彫像を指さした。

 大きな噴水は円形に造られて、中央には剣を構えた凛々しい顔のリクレインの姿がある。

 

「リクレインって海の上で戦ったの?」


 エントデルンの説明を聞いていたユユイは、なんとなく湧き上がる疑問をぶつけた。


「うーむ。海の中で息ができる魔法を使ったか、海の上で船に乗って戦ったか……か」

「噴水を見る感じだと、私的には噴水の水しぶきは荒波を表現しているんだと思う」

「そういわれると、そうにしか見えんな。おっ、ここに説明のプレートがあるぞ……なになに『噴水の水は飲めません』」

「うーん……」


 二人は噴水の前で腕を組んだ。


「ところで、シノキスはどこに行ったの?」

「さあて……」


 レゾールの宿屋にアンジェリカと落ち合う約束だったが、なんとなく賑やかな中央広場に三人とも来てしまった。

 

 レゾールは城下町とは違って、よく言えば派手で、悪く言えば下品な活気のある町だった。

 通りは色とりどりの看板が並び、馬車が猛スピードで街道を抜けていくこともある。船はぞくぞくと港に入り、船員たちが荷上場で怒声を響かせていた。

 

 広場はアクセサリー店や飲食店の出店があり、噴水のまわりでは子供たちが遊んでいる。

 

 ちょうど昼食時で、外のテラスで食事をしている客に、弦楽器を鳴らしながら歌う吟遊詩人もいた。

 歌い終わった吟遊詩人が帽子を脱ぐと拍手が起きる。そこで一際大きな拍手をしていたのがシノキスだ。


「あ、あいつあんなところに!」


 シノキスはチップを要求した吟遊詩人にコインを数枚いれた。帽子は他の観客であっという間に満杯になると、吟遊詩人はどこかへ行き、代わりにユユイが怒り顔で近づいてくる。

 

「シノキス! いつからチップ払える身分になったの!」

「いやあ……まあちょっと、大げさに拍手し過ぎたな。チップを要求されるとは思っていなかった」

「あれはエントデルンのお金でしょ!」

「悪かったよ、心から謝るよ」


 シノキスは頭を下げると、ため息混じりに手に持っていたコップに口をつける。


「こらこら……! 普通に何を飲んでるの?」

「え? さっき、そこのバーで買ったジュースだよ」

「あれ……? 私、言ったよね、たしか、シノキスは馬鹿でお金を使い果たしたから、エントデルンがみんなのお金だって『シェア』したんだよね」

「……」


 シノキスは急に口を閉じて、そっぽを向いた。


「ちょっと、話聞いてるの!」


 見かねたエントデルンがユユイの後ろから近づいてくると、シノキスが口を開く。


「これはエントデルンの気持ちなんだからユユイには関係ないと思うんだよね。僕は、エントデルンにちゃんと事前に許可をとっているんだから。ねぇ、エント」

「ん? ああ、自由にしてもらって構わない」


 なにが、エントじゃ……。

 急に親しくしてんじゃないわよ、斜陽貴族のボンクラ魔法使いめ……。

 

「ねぇ、エント。これから先はさあ、なにがあるか分からないから、私が管理しましょうか。そしたら、私の分もシェアして構わないから」


 ユユイは声のトーンを少し上げて、エントデルンの太い腕にすがった。


「おお、なるほど。それは良い案だな」

「ちょっと待ちなよ。それじゃ、ユユイがこっそり使っててもばれないじゃないか」


 お前が言うな。

 一人だけジュースを手に持っているお前がっ……。

 

 ユユイとシノキスはバチバチに視線をぶつける。


「まあまあ、仲間割れはよくない。とりあえず、アンジェリカのところへ行き、これからのことも聞くついでに、資金がもらえないか確認しようじゃないか」


 宿屋へ向かうエントデルンの後ろに、二人は互いに睨み合いながらついて行った。

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