第11話 同行者
「厳しい選考会を突破した冒険者たちよ! 我が国の功績を余すことなく、書き起こし、後世に伝える歴史を完成させてほしい。そして、魔王の封印をその目でしかと確認してくるのだ!」
巨大なステンドグラスが豪華に輝く謁見の間で、ラインハルト王は下知をくだす。そのあと、すぐにユユイたちはまた別の部屋に移動させられ、支度金が支払われた。
あれで国の正式な命令を受けたってことね。……勇者一行の出陣式みたいな晴れやかなものは望めなさそう。
ユユイの考えていたとおり、国としての正式なイベントは王との謁見で終わった。
それから三日後、ユユイは城下町の正門にいた。
支度金で宿に泊まり、身なりを整えたユユイは、晴れ晴れとした気分になっていた。
一年前とは比べられないが、ここ数日前と比べるとずっと身も心も軽い。
やっと念願の冒険職に就ける。公務だし、実績を残せば貴族にもなれる。
それにやっぱり、宿でお風呂に入ると生き返るわー。食事も比べられないぐらい美味しかったし。
学園で訓練していたとはいえ、一週間のサバイバル生活はこたえた。
城門にはすでにシノキスが立っていて、長杖をカツカツ鳴らしながら歩いてくる。
「やあ、ユユイ。今日は出立の日に相応しい、晴々とした天気だね」
「あんた、その格好はどうしたの?」
シノキスは三日前と変わらず、薄汚れたローブを着ている。ひとつ変わったところは、長杖があることだ。
「見たら分かるだろう……国からいただいた支度金で、最高級の長杖を買ったのさ」
「うへぇ」
常識を逸脱したシノキスから一歩離れて、ユユイは堂々と軽蔑した。
「馬鹿じゃないの!? その汚いローブと穴のあいたズボンを買いかえなさいよ!」
「そうしたいのは山々なんだが、僕が以前使っていた長杖は、大賢者の杖でね。最高級品じゃないと、使い辛いんだよ」
「え、まさか、全額をその長杖に……」
「そうだよ。僕は品物には妥協しないんだ」
「うへぇ」
ユユイは半目になって、軽蔑していることをアピールした。
そんな二人のうしろからエントデルンがゆっくりと歩いてくる。
「元気そうだな。準備はできたか」
ユユイはシノキスを指差して、エントデルンに支度金のことを伝えた。
「なるほど、まあわしはほとんど使ってないから、みんなで使うといい」
「おお……さすが勇者ですね。ユユイもこの心の広さを見習ってほしいものです」
「私のは1コインたりともシノキスにはやらないわ」
三人で今後の金の使い方について話していると、騎士団長ともう一人、女性が馬に乗ってやってきた。
「遅くなってすまない。調査隊のエントデルン、ユユイ、シノキスの三人ともそろっているな」
騎士団長が連れてきた女性に頷くと、女性は馬から降りて軽く礼をした。
「はじめまして、私は高位秘書官のアンジェリカと申します」
三十代ぐらいの女性で、ユユイよりずっと上に見えた。品のある所作で、よく見れば美人だ。
よく見ればというのは、眼鏡をかけて大きめの帽子を深く被っていたからだ。華美にならないよう、最低限の見た目になるよう修道女のような寸胴のローブを着ている。
前髪が帽子から飛び出ていて、赤髪のくせっ毛であることが分かった。
どこかで見たことがあるような……。
眼鏡はかけていなかったし、ローブではなく男ものの服だったけれど、たしか……。
「魔王の封印を伝えにきた人……!」
「……! よくご存知ですね。私は第29勇者師団の
ユユイはアノ日のことを今でも夢で見る。そこにはかならず、煤だらけのアンジェリカが突然現れるのだった。
「道先案内人として、アンジェリカが調査隊に指示を出すことになっている。それでは、あとは頼むぞ」
そう言ってアンジェリカと視線を合わしたあと、騎士団長は城に戻って行った。
「それでは第29勇者師団が最初に訪れた港町、レゾールへ移動しましょう」
アンジェリカが馬に乗ろうとすると、シノキスがさっと手を差し伸べた。
「あら、ありがとう」
「ところで、僕たちにも馬はあるのかな?」
「ごめんなさい。馬は用意してないの、支度金がでていたと思うんだけど」
二人の会話を聞いていたユユイは口の端を吊り上げる。
支度金を木の棒に全部注ぎ込んだやつが目の前にいますよー。杖に跨って飛んで行ったらいいんじゃない。
とはいえ、全員のお金を集めても3頭もの馬を購入することはできないので、アンジェリカだけ馬で先に移動することとなった。
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