第51話 お嬢様は真実が知りたい



「ただいま~」

「おかえり兄貴......」

「なんだ?ずいぶん疲れてるな。さっそくお楽しみだったか?ほどほどにしとけよー」

「んなわけないだろ......」


 兄貴にはメッセージで説明はしておいたが、勘違いするのは勘弁してほしい。断じてやましいことはしていない。

 ただサラが帰ってくるまで引っ付かれていただけだ。昼寝でもさせようとしたのだが、こういう時に限って全然寝てくれないのだから困る。


「ま、こちらも無事に会見は終わったし今日はお祝いといこうじゃないか。玲央、美雨ちゃん、婚約おめでとう」

「......さんきゅ」

「ありがとうございます、お義兄にい様」


 あらためて言われると恥ずかしいじゃねえか。美雨は笑顔で堂々としているけど。


「お三方ともおめでとうございます。私も次の仕事と住む所を見つけないとな」

「別にここにいればいいじゃねえか」

「そういうわけにもいかないだろう。美雨の護衛ですらない私は部外者だ」

「——鬼頭沙羅さん、私とお付き合いをしていただけないでしょうか」

「............ひぇっ!?」


 兄貴の突然の告白に奇妙な声をあげるサラ。美雨はともかく、サラのこんな声は初めて聞いたな。というか兄貴も帰宅早々すげえな。


「おー、いいじゃねえか。歳も近くて趣味も合うんだろ?こないだもいい感じだったし」

「し、しかし私なんかが秀雄殿と......。ほ、ほら、秀雄殿は社長になるわけだしっ」

「お恥ずかしながら、ずっと仕事しかしてこなかったのでプライベートな友人というのは少ないんです。それに、沙羅さんはとても素敵な女性ですよ」


 おー、サラも顔真っ赤にしちゃって。でもこれでサラもここにいる理由が出来るし、美雨も喜ぶだろう。


「サラは嫌なの?サラがお義姉ねえちゃんになってくれたら私は嬉しいわ!」


 あ、そっか。まだ気が早いが、結婚したらサラは俺の義姉にもなるのか。......筋トレに付き合わされないことを祈ろう。


「ふ、ふつつつかものだがっ、よろしくお願いします!」


 クビになった時でもケロッとしてたのに、噛んでるしここまで狼狽えるなんてなぁ。こんなことなら動画でも撮っておくべきだったか。








「いやー、でも本当に玲央のおかげでここまでこれたよ。本当にありがとう」

「兄貴が頑張ったからだろ」

「......やはり玲央殿が何かしていたのだろう?」

「とりあえず殿はやめようぜ?

「ななななにをっ!まだ気が早いだろう!」


 サラが真っ赤になるの面白いな。ずっと住み込みで護衛してたからサラも恋愛初心者なのかな。


「玲央、本当のところはどうなの?」

「まぁ何かしたっていっても相談に乗ったくらいだ」

「それが重要だったんだよ。自由にアイデアを出し合える社風にしたのはいいけど、なかなかまとまらなくてね。社内の人間だと固定観念に囚われがちだから、試しに玲央に相談に乗ってもらったのさ。普段は隠しているみたいだけど、玲央はそういったのを引き出すのが上手くてね」

「......普段からそんなことしてたら疲れるだろ」

「そういえば麗香に聞いたことあるわ。玲央に勉強を見てもらうと自分の分からないところがハッキリするって」


 涼と麗香はテスト前になると勉強教えてくれーって泣きついて来るからなぁ。しかしそんなことまで話してんのかよ......。


「それが大好評でね。皆のリフレッシュにもなるし、玲央無しでは成功はあり得なかったよ」

「......褒めすぎだって」

「まったく、何が手伝い程度だ。玲央殿がいなければ成り立っていないではないか」

「そうだね。そもそも楠を辞めた時、立ち直らせて道を示してくれたのも玲央だし。今回の件で救われる人も大勢いるだろう。自分がどれだけのことをしたか、もう少し分かって欲しいものだけどね」


 どれだけのことって......なんかそう言われると悪いことしたみたいで怖いんだが?


「全部玲央のおかげなのね!やっぱりすごいわ!」

「あ、こら。全部じゃないっての」


 美雨は感情豊かになったのはいいんだが、人前でもすぐに抱き着いてくるのはやめてほしいものだ。別に嫌というわけでは無いが、いまだにこうしたスキンシップには慣れない。

 ともあれ、楠グループに関してはもうどうこうする必要も無いだろう。楠の時代は終わる。それによって多くの人が救われるのを願うばかりだ。

 

 

 

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