第38話 お嬢様は恥ずかしい
「玲央!起きなさい!今日はプールなのよ!」
「......美雨?おい、まだ7時じゃねぇか」
「早く起きて準備しましょ!楽しみだわ!」
「その前にまずそこどいてくれ。今すぐに」
美雨は布団で寝ている俺に馬乗りになって揺すっていた。タオルケットを挟んでいるとはいえ、美雨の温もりと振動が伝わってくるこの状況はヤバい。
「いいじゃない!これなかなか楽しいわよ!」
「お前......状況よく見ろよ」
手で顔を覆った俺を見て、ようやく何かを感じ取ったのか動きを止めた。そして自分の体勢を確認すると顔がどんどん染まっていく。そういう知識はちゃんとあるんだよな。
しかし美雨がどいても俺は膝を立たせた体勢で、しばらく起き上がることが出来なかった。もっと考えてから行動してくれ......。
「ここがプールね!たくさん遊ぶわよ!」
10時の開館とともに到着し、美雨はおおはしゃぎだった。せいぜい怪我したりさせたりしないように気を付けねば。
先に着替え終わった俺たちは、しばらくして出てきた女子を見て言葉を失ってしまった。
麗香は赤のビキニで涼にじゃれついていった。涼以外に見られても眼中にないといった感じだ。
麗香がいなくなると、恥ずかしそうにモジモジしている美雨が立っている。以前に噂で聞いた通りの、出るとこは出て引っ込むとこは引っ込むという見事なプロポーション。ふいに一緒に寝た時の柔らかさを思い出しそうになってしまい、慌てて脳内から追い払った、ここで立てなくなるのはマズい。
そして最後に堂々と登場したのは
と、腹筋に呆気に取られていると、拗ねた顔の美雨が俺の腕を両手で引っ張ってきた。そんなに頬を膨らませなくても......。誰だってあの腹筋は見ちゃうだろ。
「美雨、スタイルもいいし水着もよく似合ってるな」
「そ、そうかしら?」
褒めた途端に頬がしぼんで嬉しそうな表情になる美雨。実際、今日はお団子にまとめているが美雨の金髪にフリルのついた白のビキニがよく映えている。
しかしあれだな。涼と麗香も運動しているから引き締まった体をしているし、俺だけ平凡な体だ。余計な脂肪がついているというわけではないが、筋肉があるというわけでもない。
今は人がいないからまだいいが、そのうち水棲生物になるかもしれない。エラ呼吸とか習得できちゃうかな。使う機会ないけど。
「おっし、まずは準備体操な。ちゃんと体ほぐさないと怪我するからな~」
さすがはスポーツマン。こういうとこはちゃんとしてるな。俺なんて普段からまともに運動しないから、このまま水に入ったら足をつる自信しかないしな。涼たちの真似をして体を念入りにほぐしておこう。
「玲央!競争しましょうよ!」
「は?お前、俺の運動神経なめんなよ?25mも泳いだらバテるだろうが」
「いいじゃない、夏休みなんだし!」
「付き合ってやれよ玲央。自由に泳ぎ回れるのは人のいない今の内だけだぜ?」
「分かった分かった。だからそんなに引っ張るなって」
別にカナヅチというわけではないが、こちとらボウリングですら筋肉痛になるほどの貧弱な体なのだ。期待はしないでもらおう。
麗香の合図でスタートして一応懸命に泳いだものの、結局対岸にたどりついた時には美雨が余裕の表情で待っていた。
「私の勝ちね!」
「はいはい、美雨はすごいな」
最初から勝てるとは思っていないので特に悔しいとも思わない。あ、こら、じゃれつくな。沈む!沈んじゃうから!
ったく、こいつは今の自分の格好を分かっているのだろうか。そんな肌色面積の多い水着で密着されれば健全な男子高校生に抗う術など無い。
柔らかさに押しつぶされそうになったところでパッと美雨が離れた。助かった......とそっちを見ると、美雨が顔を赤くしていた。あ、気づいたのね。
「......れおのえっち」
え、これ俺が悪いの?理不尽じゃね?頼むからその恥じらいを普段から持って行動してくれ。
身も心もへとへとになって水から上がる。これ以上水中にいては危険だ。歩いて向こう岸へ戻ろうとすると、室内なのにパラソルの下で寛いでいるサラが目に入った。なんかここだけ完全に海の気分なんだが?
「サラは泳がないのか?」
「私はここでお嬢様を見守るという仕事があるからな」
「俺が代わるから行って来いよ。たまには一緒に遊んでやれ」
「......分かった。ではよろしく頼む」
そして美雨とサラの対決は......サラの圧勝だった。なんでバタフライでクロールに勝てるんだよ。
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