第32話 お嬢様はお揃いにしたい
「怜央、スマホを貸してちょうだい」
ん?なんかどこかで聞いたことあるセリフだな。
今日はずっとニコニコしていたのに、今は少し不機嫌そうな表情だし謎だ。
「早く。......どういうことかしら?」
催促されたのでとりあえず渡すと追及が始まった。なんか浮気を問い詰める現場みたいだな。ち、違うんだ!これにはワケが......!って別にそんな関係でもねぇな。
「何がだ?」
「コレ。なんで貼っていないのかしら?」
掲げられた美雨自身のスマホには、昨日撮ったプリントシールが貼られていた。あー、それを俺が貼ってないのが気に食わないと。
怒っているというより拗ねてるみたいだ。あんまり怖くない。
「つーかさ、まさか待ち受けにまでしてねぇよな?」
「ななななんのことかしら?」
いやキョドりすぎだろ。どうせ麗華あたりになにか言われたのだろうと突いてみたら見事に図星だったらしい。あいつら、揃って待ち受けにしてるしな。
今日やたらスマホ見てご機嫌だったのはそれが理由か。だけどスマホに貼ったり待ち受けにすると、ふとした拍子に見られちゃうだろうしなぁ。
「......怜央。私たち、友達よね?」
「............おう」
美雨から発せられた強い圧につい屈してしまった。まぁ友達の定義なんて曖昧だし、お世話係とか保護者とかよりはよっぽどマシだろう。
「じゃぁ問題ないわよね!麗華も友達なら当たり前って言っていたもの!」
あんにゃろう。なに余計なこと言ってくれてんだ。それって女子同士の友達の場合じゃないの?男女の友情が成立するか問題はさておき、スマホにそんなもの貼ってたら確実にカップルだと思われるよね?
しかもさ、カップルコースで撮影したからなんか2人で歪なハート作ってたりするし、さらには麗華と美雨で落書きしたからやたらハートが飛び交ってるんだよね。
名前なんてLeo♡Miuになってるし。俺はReoだからね?獅子じゃねぇから間違えんなよ。美雨が間違えるとは思えないから麗華なんだろうけど。
しかしどうしたものか......と悩んでいると、美雨は自分の鞄からシールを取り出して貼ろうとしている。まじか。
「分かった!分かったから、スマホに貼る用のはまた撮りに行こうぜ」
「そうね。じゃぁ、それまではこれね。剥がしちゃ駄目よ?」
最悪だ......。どうせ美雨は貼るまで諦めないだろうし、せめてもっとマシなやつを撮るという妥協案を出したのに、美雨はあっさりとシールを貼ってしまった。
しかも画面側じゃねぇか。これは早急に手帳型ケースを購入するしかあるまい。
「待ち受けも変えましょうよ」
「悪いが俺は登録してないんでね。ダウンロードできねぇよ」
「それなら私の送れば問題ないわね!」
専用のサイトに登録すれば写真をダウンロードできるのだが、当然俺はしていない。しかし美雨は言うが早いかパパっと操作して俺のスマホを返してくる。
おそるおそる画面をつけてみれば、そこにはしっかりと俺たち2人が映った写真が表示されていた。よりによって1番恥ずかしいやつじゃねえか。何度見ても、頭を打ち付けて記憶を消したくなる。
俺が密かに絶望していると、美雨は自分のスマホも掲げて一緒だとドヤ顔でアピールしてくる。この顔もすっかり見慣れて可愛いとすら思えてくるよな。
まぁせっかくの夏休みだし、我慢するか。美雨にとっては思い出をたくさん作るチャンスだしな。夏休みが終わったら戻せばいいんだし。
「それにしても、玲央の部屋ってたくさん物があるのね」
それに関しては、俺の部屋がどうこうってよりは美雨の部屋に物が無さすぎるだけだと思うんだが。あの部屋も美雨の表情のように変わっていくのだろうか。
「ね、あそこの本、見てもいいかしら?」
「好きにしろよ。ただし丁寧に扱えよ」
「それくらい分かってるわ」
美雨が指したのは部屋の隅にある本棚だった。特別変わった本があるわけでもないけどな。
許可を出すと美雨は1冊ずつじっくりと確認していく。何をチェックしているんだろうか。
「......玲央!私、これ読みたいわ!」
掲げられているのはまさかのライトノベルだった。しかも異世界ファンタジーモノだ。
「気になるなら貸してやるから読んでみろよ」
「ありがとう!楽しみだわ!」
正直、初めてラノベを読んでどんな反応をするのか気になるところである。まずは異世界という設定を受け入れられるかどうかがスタートだからな。
わざわざベッドに腰かけて読み始める美雨。そこ行く必要あるのだろうか。
その日の夜は珍しくゲーム通話はせずに、持ち帰った読書に夢中のようだった。やはり現実に満足していない人ほど、そういった幻想にハマるのだろうか......。
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