第28話 お嬢様を陥落させたい
「よっしゃ。怜央、結果見に行こうぜ!」
「おう」
テストが終わった翌週の水曜日。今日は廊下に成績優秀者が張り出される日である。結果をいち早く確認しようと、4時間目終了のチャイムがなった瞬間に生徒が教室から吐き出されていく。
俺達も続こうと4人で見に行くと、いつも通りすごい人だかりが出来ていた。しかしいつもと違うのは、ざわめきが大きいということだ。上位はだいたい決まっているので確認したらすぐ去るというのが通例なのだが、今日に限っては様子が異なった。
そして俺達に気がつくと人垣がサーっと割れて通り道ができてしまった。まるでその目で確かめろと言わんばかりだ。
『1. 佐藤怜央 1194
2. 楠美雨 1182』
張り出された紙にはそう記載されていた。
——不動の1位が陥落した。その事実が関係ない生徒たちまでを動揺させざわつかせていたのだ。そして人だかりの先頭には膝から崩れ落ちている1人の男子生徒。
「よぉ、
「……こ、こんな結果が……信じられない……貴様!いったい何をした!」
「何って普通にテスト受けただけだが?つーわけで、2度と美雨に近づくなよ、元3位さん」
俺が1位になったので当然全員の順位がひとつずつ後退し、九条院はトップ3からはじき出されてしまったのだ。そもそも美雨自身に拒否られている時点でこいつに望みなど無いのだが。
しかし美雨も涼たちも反応薄いな?こっちがびっくりするくらいだ。
「いやー、怜央はさすがだな。また天才怜央が見れて嬉しいぜ」
「......その呼び方は辞めろって」
「てんさい……?」
ほら、美雨が反応しちまった。そんなとこに興味持たなくてもいいのに。
「怜央はさ、中学の時も学年1位取ったことあるんだよ。まぁその時は順位貼り出すとか無かったから他の誰も知らなかったけどさ」
「中学のテストなんてそう難しくなかっただろ」
「それはお前ら一部だけだっての。今思えば簡単だけど、当時は普通にムズイわ」
「それ以来私と涼はテストの度に、玲央に勉強教わってたのよ」
「でも、何故高校では今まで隠していたのかしら?」
「こうやって順位が張り出されるからだ。別に目立ちたいわけじゃないからな」
本当は、楠美雨がいたからというのが最大の理由だ。さすがに目立って目を付けられてはマズいと思って10位くらいを目安にしていたのだ。まさかこんな関係になるとは思わなかったけど。
美雨は学校では未だに仮面を被っている。俺たちといる時はマシだが、それでも学校外で会う時とはやはり異なる。
それを引っぺがすためには、楠というブランドを壊す必要があるのだ。ただし悪いイメージをつかてはいけないという条件が付くが。だからこそ美雨にはいつも通りでいてもらいつつ、それを上回る点数を取るという策を講じたというわけだ。
九条院も自分から勝負を宣伝してくれていたみたいだし話題を作ってくれて助かる。
まぁ勉強なんて日頃から復習をしていれば基礎は身につくしあとは応用出来るかどうかだ。だが今回俺が1位を取れたのは得意な範囲が重なったことと、もうひとつ理由がある。それは、出題傾向の予測だ。
特に理数系科目は教科書から問題をそのまま出すのか、数字だけを変えて出すのか、オリジナルの問題を作るのかは担当教師によって異なる。それらを去年1年間のテストや普段の小テストから予測して範囲を絞りこんだのだ。
このやり方はテストにしか使えないし学力自体が上がるわけじゃないから涼たちにも教えていない。どちらにしろ基礎は必要だしな。
「玲央、たくさん頑張ったのね。偉い偉い」
美雨の手が俺の頭に伸びてきたので慌ててその手首を掴む。いきなり何しようとしやがる。
「周りを良く見ろ。ここは学校の廊下だぞ」
「......っ」
未だに多くの生徒が残っているここで頭を撫でられようものなら、何を言われるか分かったものではない。ただでさえ、美雨の風邪が治ってからというもの、毎日一緒に登下校しているのだ。過度なスキンシップは控えていただきたい。
「むぅ。じゃぁ、今週末ね。覚悟しておきなさい」
「......だから耳打ちはやめろって言ってんだろ」
いくら周囲の生徒に聞かれたくないからといって、密着してしまえば意味がない。そんなの帰りにでも言えばいいだろ。そもそも何を覚悟するのか意味不明なんだが......。
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