第26話 お嬢様は何も知らない
「佐藤玲央ォ!貴様......美雨様に何をしたぁ!」
「......なんだいきなり。朝っぱらから暑苦しい奴だな。夏本番はこれからだってのに勘弁してくれよ」
「何故美雨様は今日登校されていないのだ!貴様が何かしたのだろう!」
「ただの風邪だ。んなことでいちいち来るんじゃねえよ」
つーか気になるなら昨日美雨が早退した時点で気付けよ。そんなんでよく威張れるよなぁ。
「ええい、口ごたえばかりしおって。こうなったら......次のテストで美雨様を賭けて勝負だ!」
「......あ?」
「なんだ、聞こえなかったのか!次のテストで——」
「黙れよ。なに人を景品扱いしてんだ?あいつは物じゃねぇ。お坊ちゃんってのは、そんなことも分からねぇのか?」
俺はつい立ち上がって九条院に詰め寄った。人の気持ちや都合を考えずに物扱いするというのは、まんま楠のやり方そのものだ。そんなのは絶対に許すことが出来ない。
「怜央、落ち着けよ。まぁ気持ちは分かるがな。九条院、周りを見てみな。それでも同じセリフが言えるか?」
涼が俺を宥めつつも九条院に言葉を浴びせる。教室内の視線は全て九条院に向けられている。しかしその中に好意的な視線はひとつも無い。元々クラスの奴らは美雨を崇拝していたようなところがあるし、逆に九条院はクラス内外問わず嫌われている。そこに美雨の物扱いだ。そりゃ四面楚歌にもなるわな。
「アツクナラナイデ、マケルワ」
うん、麗華は黙っていような。この雰囲気でよく言えたな。
「く、クソッ!勝つのは学年3位の俺様だ!覚えておけ!」
またも捨て台詞を吐きつつ逃げさ——ろうとして、閉まっていた扉にぶつかった。危ないからちゃんと前見ろよな。
「ったく、あいつも懲りないよなぁ。こないだ本人にも拒否られたばっかだってのに......。玲央が殴りかかるんじゃないかって冷や冷やしたぜ」
「あいにく、俺は肉体派じゃないんでね。喧嘩なんてしたら秒で負ける自信がある」
「少しは運動すればいいのになぁ。しかし結局勝負するみたいな流れになってたけど大丈夫か?あいつ、一応毎回3位だぞ?」
わが校のテストでは、この時代になっても成績上位30名の名前が廊下に張り出されるのだ。互いに意識して高め合うためなのかは分からないが、俺たち2年生は、張り出される名前は毎回ほぼ同じである。
九条院は毎回3位、そして不動の1位が美雨である。張り出される度に美雨の周りに集まって褒め称える会が開催されている。
「美雨のことはともかく、勝負自体は別に構わないさ。ってわけで、今回は手を抜くわけにはいかないからお前らは自分たちでなんとかしろよ」
「げっ......そうなるのか。今回も玲央が頼りだったんだけどなぁ」
「私も~。玲央の教え方ってすごく上手いのよね。なんかこう......自分がどこが分かってないのかピンポイントで教えてくれるっていうか」
「去年テストの度にみっちり教えたんだから基礎くらい出来てるだろ。麗香はともかく、涼は成績悪いと部活にも響くんだろ?頑張れよ」
「はぁ......ま、仕方ないか。部活は休みだし、麗香と一緒にいられる時間が増えると思えば......」
「それと、この話、美雨には言うなよ。ただでさえこのテスト前に休んでるのに、余計な気を使われてあいつの成績が下がったら困る」
「たしかに......。分かったわ」
最近の美雨は俺たち以外の声には耳を傾けないし、この2人が黙っていれば耳には入らないだろう。あいつにはいつも通りの点数を取ってもらわなくては......。
「玲央は楠と勉強会でもすんのか?」
「あー、正直遠慮したいな。なんだかんだゲームとかしちゃいそうだし、ひとりでやったほうが集中できる」
「あらあら。一緒にいると集中出来ないなんて、何を想像しているのかしら?」
「お前らと一緒にすんじゃねえよ。そっちこそちゃんとやれよ。今の内から基礎固めておかないと、来年痛い目を見るのは自分だからな」
「うっ......受験かぁ。それを言われると痛いな~。でも涼と一緒の大学行くためには学力に余裕持っておきたいのも事実だし......」
「俺も推薦もらえるとは限らないからなぁ。ま、一緒に頑張ろうぜ!」
こいつらみたいに目標がしっかりしているなら努力も継続できるだろう。
しかしふと思ったが、美雨は大丈夫なのだろうか。5月にもテストはあったが、その時はそこまで関わっていなかったし美雨は当然1位だった。だがそれから毎週のように俺と遊んでいて学力が下がっていはしないか少し心配だ。まぁ、毎晩の通話&ゲームの前には色々やっているみたいだし、大丈夫だと信じよう。
とりあえず放課後になったら、昨日と今日、2日分のノートのコピーを持っていくか。昨日の帰り際、美雨とも約束してしまったし、サラからも当然のように迎えに来るとメッセージ来てるし。
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