第23話 お嬢様は馴れ初めを聞きたい



「私、おふたりの馴れ初めが気になるわ」


 美雨も女子高生だもんな。屋上の時も恋がどうのって言ってたし、そういうのが気になるお年頃だというのは分かる。他の人には相変わらずだが俺たちに対しては普通に笑顔で話すのもいい傾向だ。だが時と場所をわきまえてほしい。ここは教室で今は昼休み。多くのクラスメイトが聞き耳を立てているのだ。まぁ今更か。


「涼、話してやれよ。どうせ周知の事実だろ?」

「いやぁ......そこはできれば後で麗香に聞いてもらえると助かるんだけど......」


 いつも爽やかな涼にしては珍しく歯切れが悪い。それもそうだ、俺がこいつをからかえる数少ないネタでもあるしな。


「......?なにかあるのかしら?」

「大したことじゃねえよ。ただ、涼から麗香に告ったってだけだ」

「あら!それは気になるわ!」


 両手をパチンと合わせて瞳を輝かせる美雨。

 当人たちは恥ずかしそうに顔を逸らしているが、これは有名な話だ。なにせ、爽やか王子とも呼ばれる茂木涼についての話なのだから。同じ中学出身の奴ならまず知らない奴はいないというほどだ。高校入学後も涼を狙おうという女子はけっこういたそうだが、まずこの話を聞いて実際に2人の様子を見て断念したのだとか。

 それなりに長く一緒にいる俺ですら、こいつらの作る雰囲気から逃げ出したくなることも多いしな。


「こいつらさ、元々幼馴染なんだよ。でも涼はこんな顔だし運動神経も抜群だから昔からやたらモテてさ。本人は麗香のことが好きだからその状況っていうのが好ましくなくて、麗香も麗香で女子に囲まれている涼に近づけなくて両想いのくせにずっとじれったかったんだ。で、意を決した涼が学園祭のステージで公開告白してようやく付き合ったってわけ」

「すごいわ!本当にそんなことあるのね!」


 ホントにな。学園祭のステージで告白なんて漫画じゃあるまいし。まぁそのおかげで学校公認のカップルになってちょっかい出す奴もいなくなったしな。それからは離れていた期間を取り戻すかのように堂々といちゃついていた。見ているこっちが恥ずかしくなるくらいだ。

 でも幼馴染っていいよなぁ。小さいころから一緒にいればお互いに変に理想を持たないし、涼も麗香も外見だけじゃなくてちゃんと内面を見ている。まさに理想のカップルだな。


「俺たちのことはもういいだろ。そうだ、俺もひとつ気になってることあるんだけどさ......楠って許嫁とかいたりすんの?」

 

 涼の口から反撃とばかりに美雨へ向けて問いが発せられた。そういえば前にお嬢様なら婚約者がどうこうとか言ってたな。


「許嫁......?いえ、そのような相手はいないわ」 

「へえ、いないのか。てっきり決まってるもんだと思ってたけど。ま、それなら良かったな」

「ええ、そうね。父が私をどう使つもりかは知らないけれど、私はこうしてみんなと関われて良かったと思っているわ」


 涼の言葉は美雨ではなく俺に宛てた言葉なのだろう。麗香と一緒にニヤニヤしながら俺を見てるし。余計なお世話だっての。そもそも許嫁とかいたらもっと噂になってるし、九条院だって美雨に絡まないだろ。

 どのみち俺のやることは変わらないし許嫁云々はどうでもいい。


「私も同じよ。前までは遠い存在だと思っていたけど、こうして仲良くなれて嬉しいわ」

「玲央のおかげだな。ちゃんと面倒見るんだぞ~」


 言われなくても既に面倒見てるんだが?涼はポンコツな一面も少し知っているからそう言っているんだろうが、実際の美雨は想像の斜め上を行くからな。よく学校では楠を演じていられるよな。あーでも、以前は演じていたっていう感じだったけど最近の美雨に関してはアレも素なのか?興味が無いから冷たくしているのか、楠として扱われることに嫌悪感を抱いているのかは分からないけど。


「あ、そうだ。今度さ、バスケの大会みんなで応援来てくれよ。俺頑張っちゃうからさ」

「あ、いいじゃない!ルールが分からなくても私が解説してあげるから!」


 そういや中学の時は見に行ったことあったけど、高校入ってからは行ったことなかったっけ。涼は中学の頃から才能を発揮していて県内でもわりと名が知られているほどの選手らしい。すごいよなぁ。将来はNBAだかGBAだかになるのだろうか。

 一方の麗香も中学の時は女子バスケ部に所属していたのだが、高校では涼のサポートをしたいからという理由で部活には入っていない。しかも、涼以外の世話はしたくないという理由で男子バスケ部のマネージャーを断っているのだからこちらもすごい。将来は栄養士を目指すとか言ってるし、それも涼の為なんだろうなぁ。

 俺は将来どうしているのだろう。上手くやれているのだろうか。......美雨はきちんと笑えているだろうか。ポンコツは少しは直っているのだろうか。

 全てが理想通りにいくとは思っていない。だがそこに至るための努力はしなくてはならない。ま、今はとりあえず、この笑顔を守ることが優先かな。



 

 

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る