第22話 お嬢様はサムを救いたい
「玲央!明日こそゲームセンターに行くわよ!」
「おー、覚えてたのか。ちょっと待ってろ............明日は晴れるみたいだな。なら大丈夫か」
先週の幼児化の影響で忘れているかと思ったのだが、美雨はそのへんしっかり覚えていたらしい。そんなに行きたいのか。
「ふふ、明日10時。約束だからね!」
「おう。ほら、集中しないとサムが死んじゃうぞ」
「あっ!ちょっとサム!しっかりしなさい!死なないで、サム!」
必死だなぁ。お願い、死なないでお
俺たちが毎晩通話しながらサムと一緒に開発しているおかげで、島はもはや要塞と化していた。住民たちも調教したので従順になり、いまや全員が一流の兵士だ。元々何が目的だったのかも思い出せないがまぁいいだろう。
「おはよう!怜央!」
今日はいつも通り元気いっぱいの美雨だ。なんかこの笑顔見ると安心するな。サラは美雨を降ろすとそのまま車で走り去って行った。あれ、サラさん?今日もサボりですか?さすがに出かけるんだしこっそり尾行するんですよね?......ね?
さて、ゲーセンに行くとは言っても、思い浮かぶのは2つある。ショッピングモール内にあるゲーセンか、大型ゲーセンかのどちらかだ。ショッピングモールならバス、大型ゲーセンなら水族館前駅まで電車だ。
「今日は水族館の近くのゲーセン行くか。ほら、駅行くぞ」
「ええ!楽しみだわ!」
この手の温もりもホントに当たり前になってるよなぁ。うっかり学校で繋がないように気をつけてもらわなくては......。
さすがにもう慣れた手つきで美雨が2人分の切符を購入する。ドヤ顔で渡してくるのは相変わらずだが。見慣れてしまえばこれも微笑ましく思え......なくもない気もする。
電車を降りて少し歩けばもう到着だ。アラウンドワンと呼ばれる大型の施設。アラワンと呼ばれていて、アラサーの仲間かと思ってしまう。
ゲーセン以外にもダーツやビリヤード、ボウリング、カラオケなど様々な施設が複合している。美雨が自信満々に歩き出そうとするが、しっかり手を引っ張って制止する。
「落ち着け。そっちはボウリング場だ」
「わ、分かってるわよ!ちょっと覗いてみようと思っただけじゃない!」
「はいはい、また今度な。こっち、行くぞ」
何故入り口に館内マップがあるのに直感で動こうとするのか......。優等生なんだよね?え、もしかして俺といる時だけ影武者になってたりする?
「うわぁ!これがUFOキャッチャーね!たくさんあるわ!」
「景品も色々あるからな。まずは欲しい物を探し——」
「片っ端から全部に決まってるじゃない!」
いったいいつ決まったのか......。店にも俺にも迷惑だからやめてほしい。
「あら?玲央、これお金どこに入れるのかしら?」
「ちょっと待てや」
なんで1プレイ100円のUFOキャッチャーに万札入れようとしてんの?全部って全種類じゃなくて文字通り店内の景品全部ってこと?持ちきれないし普通に出禁になるだろ。
「100円玉か500円玉しか入らないから両替......つーか切符買ったお釣りあるだろ。出せ」
いや、首を傾げながら財布ごと差し出すな。俺がカツアゲしてるみたいじゃねえか。
今まですっかりスルーしてたが、そういえばこいつの財布から万札以外が出てくるのを見たことが無い。今までのお釣りどうしたの?硬貨のコレクションとかしてないよね?
財布を開かせるとちゃんとお釣りが入っていたのでそれを使わせる。
「よし、お前今日万札使うの禁止な。まずは細かいの使い切れよ」
「......分かったわ」
そんなしょんぼりすんなよ。......と思ったが、いざプレイを始めるとすぐにそっちに夢中になった。ホント単純で助かるよ。
右と奥の2ボタンしかないのにUFOキャッチャーって奥が深いよな。途中両替をしつつ指示を出して粘った結果、1000円を超えたところでようやく景品が取り出し口に落下した。
「見て!取れた!取れたわ!」
「はいはい、良かったな。取る時指挟むなよ」
集中モードから一気に笑顔になる瞬間って面白いな。ま。初めてだしはしゃぐのも仕方ない。......『誰でも取れる!設定激甘台!』と書かれているのは内緒にしておこう。
しかしこれで片っ端からというのが難しいと判断したのか、美雨は景品を真剣な目で睨みつつ移動していく。そんなに睨んだら景品がかわいそうだぞ。
そして、ある物を視界に入れた途端、再び美雨の表情がパァっと明るくなる。
「玲央!サムよ!サムがいるわ!」
そこにあったのはあのハゲたオッサンのぬいぐるみだった。これぬいぐるみになってたのかよ......。一部では人気になっているとは知っていたが、オッサンのぬいぐるみなんて本当に需要があるのだろうか。しかも奥にはオッサンが山のように積まれている。軽くホラーじゃね?......目の前の少女はすでにやる気満々だが。
「待ってなさい、サム。私がそこから救い出して見せるわ!」
「......頑張れよ」
ただのUFOキャッチャーなのに、なぜか壮絶な戦いが始まろうとしている。ド素人のくせに、様々な角度から景品を見て狙いを定める美雨。そしていざ戦いの火蓋が切られた——!100円玉を投入し慎重に右ボタンを押す美雨。......あれ、いきすぎじゃね?まぁ初心者だし徐々に慣れるしかないか......と思っていた俺は甘かった。
降下して空を切るはずだったアームの先端は、奇跡的にタグの輪っかに入ってオッサンを持ちあげた。そして持ちあげられて移動を開始するオッサン。さらに道中転がっている他のオッサンを巻き込んでそのまま取り出し口へ落下。
「わぁ!見て見て!同時に2人も取れちゃったわ!」
一体どんな豪運だよ。これが愛の力だとでもいうのか?というかぬいぐるみを2人って呼ぶのはやめてほしい。
「はい、1人は玲央にあげるわ!大事にしてね!」
「......お、おう......ありがとな」
なんだろう。美少女からお揃いの物をもらうってものすごく嬉しいはずなのに、それがオッサンのぬいぐるみってだけでなんでこんなに悲しくなるんだろう。
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