第20話 お嬢様は新たな仮面を被る
「おーっす」
「おはよう、玲央」
いつも通り登校して涼に挨拶をする。こいつ朝練もしてるはずなんだけど疲れた様子とか全くないんだよな。
ふと美雨の方を見ると、なんだかいつもと違うような気がする。......そうか、美雨を囲む人だかりが少ないのだ。
「気づいたか?来てすぐは人が集まってたけどすぐに解散しちまってたぞ。どうにも先週とはまた様子が違うみたいだ」
「違うって?」
幼児化はもう収まったはずだしそんな風には見えない。今日も背筋を伸ばして座っているしな。
「なんかなぁ......素っ気ないというか冷たいというか、機嫌が悪いようにも見える。麗香が挨拶した時はそうでもなかったらしいんだけど、他の連中に対してはそんな態度だから刺激しないように離れたんだろ」
「ふーん。なんだろうな」
学校でそういう態度を見せるのは珍しいな......と思って見ていると、美雨がこちらを向いて微笑んだ。......え?
「おい、涼。今あいつ......」
「ん?どうかしたか?」
なんで肝心な時に見てないんだ。まさか、涼が見ていない一瞬を狙ったのか?笑顔——それも愛想笑いではなく自然な——を他人がいる場所で見るのは初めてだ。機嫌が悪いなら笑うとは思えないし、いったい今度はなんだってんだ......。
授業を受けつつ美雨を観察してみる。休み時間になると人は寄ってくるが、たしかに普段より反応が薄いな。愛想笑いすらないようにも見える。朝の笑顔は俺の妄想だったのだろうか、なんて考えてしまう。
そして迎えた4時間目の授業終了のチャイム。
「美雨!一緒に食べよ〜!」
美雨に向かって手を振りながら声をかける麗華。こいつ、チャイムと同時に俺たちのとこに来やがった……。
麗華の声に振り向いた美雨はパァっと顔を輝かせて歩み寄ってくる。
「お邪魔してもいいかしら?」
「……好きにしろよ」
普段とはまるで異なる光景にクラス中がザワついた。まぁこれは涼と麗華に相談して決めていたことだ。さすがに俺と1対1というわけにはいかないが、麗華の友達として俺たちの輪に加わるならまだマシだろうという寸法である。
机をくっつけて座るのだが、カップルである涼と麗華は隣同士。つまりは俺と美雨も自然と隣同士で座ることになる。まぁ向けられる視線の痛いこと。いきなり教室で一緒にってのは早計だったかなぁ。
普段美雨を取り巻いている連中は諦めたのか、教室の中心でまとまってご飯を食べ始めたようだ。
「美雨、なんかあったか?朝から様子が変だぞ?」
「え?何も無いしいつも通りよ?」
クラスメイト達に聞かれないように小声で尋ねてみる。いや、少なくともいつも通りではない。しかし自覚がないとは……。
涼と顔を見合わせると苦笑いで返された。
「まぁいいじゃない。美雨も一緒にお昼食べるの楽しみだったんでしょ」
「ええ、とても」
楽しみなのはいいんだけどさ。麗華から美雨に話していたらしくて昨夜の通話でも楽しみって言ってたし。俺も仮面の美雨より、今の自然に笑ってる美雨のほうがいい。ただ、それと今日の様子がどう繋がるのかという話だ。楽しみなら普通ソワソワするんじゃないのか?なんで周囲に冷たい態度を取るんだ?
「美雨のお弁当美味しそ〜。あ、ちょっとそのハンバーグちょうだい!代わりに怜央が卵焼きあげるから!」
「おいこら」
「いいじゃんいいじゃん!じゃ、1個ずつ分けようよ!」
麗華の唐突な提案により、美雨のハンバーグが麗華に、麗華の春巻きが涼に、涼のピーマンが俺に、俺の卵焼きが美雨に渡されることとなった。......俺だけなんかおかしくね?野郎の弁当——しかもピーマンを分けてもらっても全然嬉しくない。俺の卵焼き......今日のは会心の出来だったのに。
麗香は涼に『あーん』で春巻きを食べさせている。ニヤニヤしながら挑発するようにこっちを見ているけど、やらないからな?
美雨に卵焼きを渡すと、口に入れてずっと噛んでいる。あれ?そんなに固かった?もしかして中にガムでも入ってた?
「......おいしい」
数分かけて飲み込むと、ようやく一言だけ発した。そういや、こいつ気に入ると黙々と食べるんだっけ。卵焼き1つにそんなに時間をかけるとは思わなかったけど、気に入ってくれたなら何よりだ。
「玲央のお弁当って自分で作ってるんでしょ~?すごいなぁ」
「冷食も多いけどな。面倒くさい時はコンビニで買ったりするし」
麗香が褒めてくるが俺が弁当を作るのは、自分で好きな物を入れられるから、かつ好みの味付けに出来るからだ。経済的とかそんなことは知らん。
昼休み終了ギリギリまで昼食と雑談を楽しんだが、結局美雨の態度は謎のままだった。......ここの席の奴ら占領してすまんな。
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