第15話 お嬢様とベッドの上


 「待たせたな」


 部屋に戻ると、美雨がゲーム機の箱を未開封のまま大事そうに抱えて座っていた。——俺のベッドで。なんで?

 部屋に入れるのは百歩譲ってまぁいいとしよう。だけど普通ベッドに座る?ちょっと後ほどサラと話し合う必要がありそうだ。


 「なんだ、箱も開けないで待ってたのか?」

 「だって初めてなんだもの!一緒に開けたいじゃない?」


 一緒にプレイするのはともかく、一緒に箱を開けたいというのはちょっとよく分からない。まさか開け方が分からない?いや、そんなバカな......。

 まぁワクワクしてるとこに水を差すのもなんだし、とっとと開けて設定しなくちゃな。

 俺がカッターでテープ部分を切って、開けるのは美雨にやらせる。うん、どうやら本当に開け方が分からなかったらしい。まぁテープなんて未開封ですよーっていう印みたいなもんで、箱自体が簡単には開かないようになってるもんな。まずここ開けて、次はここ……というふうに指示を出しながら、美雨が慎重な手つきで開けていく。

 ようやく箱を開けると、これまた慎重に中身を取り出す。プチプチを剥がす時までひとつも潰さないぞという気概を感じる。

 ついに姿を現したゲーム機本体を両手で掲げてドヤ顔を披露する美雨。いつものことだが、なんかこう......よく出来たね〜って頭を撫でたくなってしまう。


 「よし、じゃぁまずは電源入れてみるか。下の方にスイッチあるから......そうそれ。押すのは1回だぞ。今回は初めてだから色々設定な。まずは名前の入力だな」

「にゅうりょく?どうやるのかしら?」


 画面にキーボードが表示されているはずなのだが、美雨は本体裏側の隅々まで確認していた。いや、さすがに裏側には何もないだろうよ。


「画面が2つあるだろ?下側がタッチパネルになってるんだ。ほら、ここにタッチペンが刺さってるからそれ使って」

「......むむ、けっこう難しいわね。......よっ......ほっ......できたわ!」

「あとは日付と時間だな」


 設定するだけでも真剣にやっている......掛け声が必要なのかはさておき。あれ?そういや美雨ってメッセージ打つのめちゃくちゃ早かったよな?なんでこれは苦戦してるんだ?タッチペン恐怖症?いやなんだよタッチペンが怖いって。普通に使ってるし。


「見て!玲央!全部終わったわよ!」

「はいはい、よくできたな」

「それで?この後は?」

「あとはソフトを購入すればいいんだけど、問題は何にするか......」

「玲央がやってるやつがいいわ!」

「いきなりアレは無理だな。まずはゲーム自体に慣れないと......」

「むぅ......分かったわ。なら、玲央がやってるとこを見せてちょうだい?」

「俺がやるのか?」

「ええ!玲央がやってて面白そうなのを私もやるわ!」


 たしかにいきなり買うのはリスク大きいし、実際のプレイを見ればイメージもつきやすいだろう。だがその前に......。


「昼飯はどうするんだ?そろそろ腹減ったんだけど......」

「おひるごはん!私、またあのレストランに行きたいわ!」


 レストラン......水族館の時に行ったとこか?あの時めっちゃ迷ってたからな、他のも食べてみたいのだろう。

 

「まぁわりと近くにあるしそこ行くか」


 普段なら自分で作ったりもするが、こいつらの好みとか知らんしな。

 

「やった!楽しみね!」

「では参りましょう」




 サラに運転してもらって到着したレストランで、美雨の前には半熟卵つきのドリアとカルピスがあった。好奇心旺盛かと思えば、気に入ったのものはそればかりという感じか。スプーンで半熟卵を崩した時は、まるで宝箱を開けたかのように子供っぽい笑顔を見せていた。


 

 

 再び帰宅した美雨は、当たり前のように俺のベッドのに腰かけた。そこ定位置にするのやめてもらえないかな。

 さきほどのやり取りの通り、俺が色々なソフトをプレイしてそれを美雨が見物するということになったのだが......。


「玲央、そこじゃ見えないわ。こっちに座ってちょうだい」

「......ここでいいだろ」


 美雨はベッド、俺は自分の椅子に座っていた。だが美雨はそれが気に入らないらしく、自分の隣を叩いていた。それ、お前のベッドじゃねえからな?


「いいから!玲央!こっちへ来なさい!」

「......わーったよ」


 命令口調ではあるものの、美雨はすごく笑顔だ。思わず「ワン」といいそうになってしまったのは内緒である。

 そして、簡単そうなものからピックアップしてプレイしていったのだが、美雨は最初はこそおとなしく隣に座って見ていた。しかし次第にソワソワしだして、背後に回ってのぞき込んだり、俺の両肩に手を置いてよりかかってきたりした。......集中出来ねえ。至近距離で動くせいで、なんだかいい香りが鼻に入ってきて余計にだ。

 文句を言おうと振り返ってみれば、何故か笑顔全開の美雨。こんなんでも楽しいのか?

 まぁせっかくだしと、俺がお手本を見せてから美雨にゲーム機を渡して実際にやらせてみる。真剣な表情でプレイを開始して、泣きそうな顔をしたり子供のように喜んだり、ドヤ顔を披露したり。コロコロ変わるこの顔を見ているだけでもなかなか楽しいな。

 

 



 

 

  *   *   *



 その夜——

 

『玲央~、聞いたわよ?やっと美雨のこと名前で呼んだらしいじゃない。まったく、もっと積極的にいきなさいよ』

『大きなお世話だ。そういう関係じゃねえんだよ』


 麗香からのメッセージで、そういえば面と向かって呼ぶのは初めてだったのか......と思い至る。メッセージ内では呼んでいたしそこまで意識していなかった。通話中に美雨が寝落ちした時に呼んだことはあるが、あいつには聞こえてないしな。

 それで今日は妙にテンション高かったのか?にしてもなんでそれをわざわざ麗香に報告してんだよ......。

 

 

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