第10話 お嬢様は夢中



「怜央!こんなところで珍し......い、な?」


 すぐそこの店から出てきたらしい涼だった。その隣には彼女の南条なんじょう麗華れいかの姿もある。

 途中で美雨の姿を視界に入れたせいか、セリフが途切れた上に疑問形になっている。

 生徒の誰かしらはいるかもしれないとは思ったが、まさかピンポイントで涼たちと遭遇するとは......。


「涼、今日部活はないのか?」

「あ、ああ。今日は午前中だけだったから麗華とデートなんだが......」


 そう言いつつ視線は俺の手元に釘付けだ。手を繋いでるから俺達もデートかとそう言いたいのだろう。


「俺達は今からそこのフードコートで飯食うけど一緒にどうだ?」

「俺達も飯はまだだけど......いいのか?」

「別に遠慮することはねえだろ。ま、色々話すこともあるしな」


 ということで4人でフードコートに入る。

 ここには様々な店が入っており、うどん、牛丼、ステーキ、ハンバーガー、クレープ、タピオカのお店がある。

 美雨にどれが食べたいか尋ねてみたが、案の定キョロキョロして迷いに迷って決まらない。

 涼たちは久しぶりにハンバーガーが食べたいと並びに行ってしまった。

 面倒なので同じのでいいだろと思ってハンバーガーの列に並ばせる。

 涼はバーガー3つ、ほか3人は1つずつ。内2つをセットにしてポテトとナゲットを選んでシェアすることにする。


「涼は相変わらずよく食うよなぁ」

「まあ運動部だしな。今日も午前中部活だったし腹へったんだわ。逆に怜央はよく1つで足りるよな」

「こちとら帰宅部なんでね。省エネだよ」

「......で、2人はいつから付き合ってるの?」


 待ちきれなかったのか麗華がぶっ込んでくる。


「別に付き合ってねえよ」


 と返すもめちゃくちゃ疑わしそうな目で見られた。


「へぇ〜?付き合ってないけどお手手繋いでデートなんてずいぶんと仲がよろしいことで」


 麗華はニヤニヤしてからかって来るが、俺がつい最近別の女子に告白して振られたことを知っている涼は複雑な顔で見てくる。


「別にいいだろ。お前らこの後予定は?」

「んー、今日は何も決めてないからブラブラしようかーって話してたんだけど......」

「お?じゃあダブルデートしちゃう?」


 麗華がノリノリで誘ってくる。デートはともかく、一緒に行動してくれるのは助かる。

 ふと隣を見てみると美雨は無言でハンバーガーを食べ続けていた。そういやドリアの時も無言で食ってたな。気に入ったということか?

 食べ終わったゴミを片付けてフードコートを出る。


「あ、ねえ楠さん!一緒に服見ない?」

「......服?」


麗香の問いかけに首を傾げて俺を見る美雨。なんでこっち見んだよ。


「行って来いよ。俺は外で待ってるから」

「そうだな。俺はここで待ってるよ」


 無理に買わずとも女子2人でお喋りしながら試着するのは普通の高校生っぼいともいえるだろうし行って来ればいい。 てっきり涼はついていくと思ったんだが、一緒に待つと言ったのは驚きだ。

麗香は一瞬涼を睨んでから美雨を連れて店に入っていった。


「......で、ホントのとこはどうなんだよ」


 涼がいきなり核心をついてくる。それを聞きたいから残ったのかよ。


「んー、まあ付き合ってはいねーよ。......前に2人であいつの事話したの覚えてるか?」

「あー......俺が羨ましいって言って、怜央は羨ましくないって言ってたことか?」

「そうそう。それをさ、聞かれてたみたいなんだよなぁ。それで呼び出されてなんだかんだと付き合わされてるわけ」

「理由になってるようななってないような感じだな」

「あいつ自身もさ、楠であることに嫌気がさす時があるんじゃねえのかな。努力することが当たり前で、何かをやり遂げても成果を出しても楠だから当たり前って思われてさ。だからこういう普通の高校生っぽいことに憧れてるんだろ」

「なるほどねぇ。それに付き合ってやってると」

「そんな感じだ。ちなみに手を繋いでたのはそうしないと迷子になるからだ」

「迷子に?怜央が?」

「なんでだよ。あいつ、勉強は出来るけどバカだぞ。こないだなんて電車に乗ろうとして、こっちな気がするっていきなり真っ直ぐ新幹線のホームに行こうとしたからな」

「ハハハ!なんだそれ! 勉強出来るバカなんて本当にいるんだな」

「まあそんなわけだ。それに......好意があろうとなかろうと、あいつがである以上、俺と付き合うことはねえよ」

「お嬢様なら婚約者とかいそうだもんなぁ。ま、いいじゃないの。今だけでも息抜きに付き合ってやろうぜ。あんな美少女と一緒にいられるなんてそうそうないぜ?」


 そういうことではないんだが、まあ説明するのも面倒だしいっか。


「......おまけにそこら中に護衛がいるけどな」

「え、まじ?」

「周りをよーく見てみろよ。明らかに浮いてるのが何人かいるだろ。そこの椅子に座って新聞読んでるフリしてるけど同じページからずっと動かない人とか、あっちで永遠に同じ服見てる人とか、涼の後ろでずーっと吹き抜け眺めてる不審者とかな」


 涼は驚いて辺りを見回す。近くにいた護衛2人は慌てて視線を逸らすがバレバレだ。


「......護衛とか本当にいるんだな」

「もっといるぞ。まあ見るからに怪しいけどこれでもマシになったほうだ。こないだなんて水族館なのに、全員スーツにサングラスだったんだぜ?どこのハンターだよって思ったわ」

「うわぁ......」


 ほら見ろ。涼だってドン引きだぞ。

 楠家って護衛も含めてポンコツすぎる。大丈夫か?

 美雨本人は気づいているか分からないが、こんだけ監視されていたらデートもなにもあったもんじゃない。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る