第6話 お嬢様ははしゃぎたい
さぁいよいよ本日メインの水族館だ。
経緯はどうあれ、実は少し楽しみである。水族館など幼いころに一度だけ行ったような気がするがほとんど覚えていないしな。
自分がチケットを買うと張り切る楠を見守る俺。券売機方式だからリベンジだな。
しかしここでトラップカード発動!水族館のチケットも1種類ではないのだ!
フリーズした後、泣きそうな顔で俺を振り返るポンコツお嬢様。
大人と子供で分かれているのはもちろんのこと、ワンデイや年パス、さらには他の特典とセットで販売しているのもある。
「落ち着け。俺たちは高校生だから大人。んで次、今日の分だけあればいいからワンデイってやつな。人数は2人を選んで。はい、あとはお金入れれば——ほら出て来たぞ。お釣りも忘れるなよ」
俺の指示通りに画面を押していき、出てきたチケットと慌ててお釣りを取る。
チケットを1枚俺に手渡してくるが、なんだろう、ドヤ顔やめてもらっていいですか。ついさっきまで泣きそうだったのにメンタルすごいな。
揃って係員にチケットを渡して中に入る。通路を曲がると開けた場所に出てガラス張りの巨大水槽が出迎える。
「きれい......」
壁面にはこの水槽にいる魚の説明が書いてある。どうやらここはスズキやタイなど聞いたことある魚が多めのようだ。名前だけ聞くとお腹が減ってくるような気がする。
楠は最初の水槽の前で立ち止まったまま動かない。
「どうした?気になるのでもいたか?」
「......ううん。すごく幻想的だなって」
「そうだな。まだまだこれからだぞ。お、あっち見てみろよ」
反対側の水槽には白いイルカ——ベルーガが悠然と泳いでいた。
「わあ!すごい......。こんな生き物もいるのね......」
楠が近づくとベルーガも挨拶をするかのようにゆっくりと近づいて首を振りながら旋回していった。
「ねえ、今の見た!?こんなに近くに——」
「興奮するのは分かるが他にもお客さんいるからあまり騒がないようにな」
「あっ......、ごめんなさい」
まぁ今日見るもの体験するものすべてが初めてづくしだから無理もないがな。
こうして素直に感情を表現する姿を見てると、あの楠のお嬢様だってことを忘れてしまいそうだ。
それから進んだ先にある超巨大水槽にはサメやマンタなど大型の生き物がいたりクラゲコーナーで癒されたり、水槽がトンネル状になっていてまるで海の中にいるような感覚に陥ったり楽しんだ。放っておくと1か所にずっと固まっているので仕方なく手を引いてゆっくりと回った。
しばらく見ていると、館内放送でショーの案内があったので見に行くか聞いてみると瞳を輝かせてコクコクと頷いた。
割と空いていたがあまり前に座りすぎると水がかかるかもしれないと思って中ほどに座る。
開始を待つ間に何が一番気に入ったか聞いてみると、最初のベルーガだそうだ。ちなみに俺の中では巨大なカニだ。中にはたくさん身が詰まっていそうだ。
時間になってショーが始まり、まずは司会のお姉さんに促されてアシカがお辞儀で挨拶をする。そのままボールを使った芸を披露。
続いて登場ししたのは数頭のイルカだ。キュウキュウ鳴きながら泳ぎ回りご褒美の魚を食べる姿はとてもかわいい。
水中に潜ったかと思えば観客席より高い位置に吊り下げられているボールに向かって一斉に大ジャンプを披露した時は湧いた。
最後に登場したのはシャチだ。人など丸呑みしそうなほど大きいのにちゃんということを聞いてる。
すごい速さで泳ぎ回り、お姉さんの元へ上陸するついでに観客席へ向かって大きな水しぶきを飛ばした。やっぱそうなるよなぁ。
俺たちのところまではギリギリ届いていないが、近くで見ようと前にいた子供たちとその親はもろに水をかぶってしまっている。あれどうするんだろう。
中には傘をさしている人もいるけどあれは上級者だな。間違いない。
隣のお嬢様はショーの最中、息をのんだり拍手したり悲鳴を上げたり大忙しのようだった。こんなに表情の変わるところを見られるのは貴重だし面白いな。こっちが素の楠美雨なのだろう。
ショーが終わり、残りも見て回る。チンアナゴコーナーとかペンギンコーナーとか癒されるなぁ......。
出口と表示されたドアを抜けると売店になっていた。ここでお土産などを買うのだろう。
「なんか買うか?」
「そうね。何があるのか見てみたいわ」
ぬいぐるみとキーホルダーとクッキーのイメージしかないな。と思っていたが、実際に見て回るとすごい種類の商品が置いてあった。
楠は一生懸命品定めをしているようだが何か買うのだろうか。今までだったらぬいぐるみなんて似合わないよなあなんて思っただろうが、今日の多数の子供っぽい反応を見てしまうと抱いて寝てても違和感はなさそうである。
外に出て時刻を確認すると16時になろうかというところ。12時前に入ったから4時間近くもいたのか。まあ楠なんてほっといたら1日中でも眺めてそうな感じだったしな。
さて目的も達成したし解散でいいのか?と楠を振り返ると首がゆらゆら動いている。眠いのか?
とりあえず近くにあったベンチに座らせる。ずっとテンション高かったし無理もないか。
しかしこれでは電車に乗るのも難しそうだしどうしたものか、と悩んでいると俺たちに近づいてくる人影があった。
「あとは我々に任せてもらおう」
スーツ姿の女性とその後ろに同じくスーツの男性と女性が1人ずつ。3人ともがサングラスをかけている。どう見ても怪しいな。
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