第4話 お嬢様は誘いたい



 さて、ついにこの時が来てしまった。朝なんて来なければいいのに......。

 ハハ、太陽が眩しいぜ。


 こういう時は遅刻寸前に登校して寝坊したフリをするのが良い。それでまだメッセージ見てませんアピールをするのだ。

 ということで予鈴ギリギリに教室の後ろ側の扉から可能な限りそーっと忍び込んだのだが、涼に挨拶して席に着いた途端にある方向からものすごく圧を感じた。

 連絡先を交換した(させられた)から下駄箱の手紙は無くなってホッとしたのもつかの間、教室に着いたらこれである。

 何食わぬ顔でお嬢様のほうをチラリと見ると人垣の隙間からずっとこちらを見てる。というか睨んでる。

 チキンハートな俺はそれに耐えられず、急いでスマホを取り出してお嬢様にメッセージを送る。


『わりい。寝ててメッセージ気付かんかったわ』


 とりあえずこれでいいだろう。


 ......俺は油断していた。というか忘れていた。相手があの楠美雨であることを。

 授業が終わり休み時間になると再び向けられる圧。

 そう、優等生なお嬢様は教室内でスマホを弄るなんてことはしないのだ。


 今日1日睨まれるのなら早退してもいいかな......なんて考えていたら、2時間目が終わった休み時間にメッセージが届いた。

 相手はかのお嬢様。教室内を見渡すとお嬢様の姿はない。おそらくトイレあたりで操作しているのだろう。

 メッセージの内容はただ一言。


『ばか』


 なんて返そうか悩んでいると、すぐに追加でメッセージが送られてきた。


『今夜はちゃんと返しなさい』


『了解』


 いや待て。なに普通に了解してんだよ俺。

 お嬢様も俺じゃなくて他のやつに構ってもらえよ。ゲーム出来ないじゃねえか。

 せっかく金曜日で明日のことを考えずに夜更かし出来ると思ったのに......。まあ勢いとはいえ言ってしまった以上はお嬢様が寝るまでは相手するしかないか。

 良い子は21時に寝ような!早寝早起きは大事だぞ!


 ちなみに昨日楠が送ってきた内容を確認してみると


『遊園地と水族館ならどっちのほうが楽しめるかしら』

『水族館って場所によっている生き物も変わるのかしら』

『遊園地って乗るのにどれくらい待つのかしら』


 といった感じでお嬢様の疑問が羅列されていた。家族とかお世話係の人とか聞く相手いないの?

 ていうか、普通にスマホで調べればよくね? え、もしかして今日もこんな感じで送られてくるん?


 やがて戻ってきたお嬢様は、こちらを睨むこともなく自分の席に着いて前を向いていた。 少しは機嫌が直ったのだろうか。


 その後は涼とじゃれあったり真面目に授業を受けたりしてようやく学校という監獄から解放された。

 帰宅して鞄を下ろした途端にスマホから振動が伝わってくる。涼は部活中だし思いあたるのは1人しかいないが......早くね?俺今帰宅したばかりなんですけど。

 スマホの画面をつけると表示されたのは予想通り楠美雨の文字。あいつ帰るの早くね?いや、お嬢様だし迎えの車か?まあどちらでもいい。


『明日10時。駅前ね』


 これはいったいなんの暗号だろうか。宛先間違えた?うんきっとそうに違いない。だってあのお嬢様と明日会う約束なんてしてないし。

『間違えたわ』の一言が送られてくるのを待ってみるが続いて送られてきたのは壁からキャラクターがそーっと覗いているスタンプ。

 仕方が無いのでため息をついて返信する。


『宛先まちがえてるぞ』

『間違えてないわよ』


 いや早いよ!?送ってから2秒も経ってないよ!

 しかし間違えてないとなると休日まで俺に何の用だ?

 しかも10時ってはええよ。ゆっくり寝かせてもくれないのか。

 なんだろう、ついに今までの無礼の落とし前として沈められちゃうのかな。もしくは臓器を抜かれて売り飛ばされるのか......。

 あれ、おかしいな。急にスマホを持つ右手が震え出したぞ。クッ......おさまれ、俺の右手......!

 なんて遊んでいると追撃のメッセージ。


『いい?約束だからね。必ず来なさいよ』


 約束とはいったい......。

 こっちは今から夜中までゲームして昼までゆっくり寝てまたゲームして堕落するので忙しいというのに。暇なお嬢様ときたら人の都合ってもんを考えるべきだ。


『返信』


 さらなる追撃。いやもう怖いんですけど。


『はい』


 咄嗟に返してしまったがどうしよう。俺の余命もあと半日と少しか。

 深夜のゲームを泣く泣く諦めて日付が変わる前に寝る。万が一遅刻でもしようものなら何を言われるか何をされるか分かったもんじゃない。

 明日の俺、頑張れよ。生きてるのか知らんけど。

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