第6話 アリサに、新アイテムは、アリです!

「師匠! できました?」


 師匠が懐から出したのは腕輪バングルと万年筆。どちらにも魔法石が組み込まれている。


 突貫戦法だけでは、意味がない。

 人々を救う。かつての魔法少女としての私。この異世界に来ても変わらない目的。

 そのためには『力』がいる。基礎は構築されつつある。残る問題は攻撃の幅。


 遠距離魔法の適性はない。でも、物を投げることはできる。

 ”物を飛ばす”。私はこれに目を向けた。


「貴方の魔力量は絶大。だから、いくらでも生成できる......低コストでね」


 腕輪バングルをはめる。ファセットタイプ。外側は魔法石が埋め込まれている。ホワイトゴールドを施したモダンなデザイン。

 内側には刻印が刻み込まれている。魔法文字。読まないのは、私が知らない言語。もしくは、師匠が独自に開発した言語かもしれない。


 手首の通した時にはブカブカで片方の手で抑えない下に落ちてしまう大きさ。腕輪バングルに魔力を注ぐ。大量の魔を注がれた魔導具はみるみる形を変えていく。

 縮んでいく。最終的には六歳の手首に合わせたサイズへ。


 ブンブン、手を振る。落ちないことを確認した。

 大丈夫と判断したのち、左手首にも同じ腕輪バングルをはめる。


(二つの腕時計を付けている気分......)


 格好はそうだろう。


 次は実践だ。


 右腕を前に出す。狙いは部屋の奥にある魔導書。

 腕輪に魔力を注ぎ、発動する。


 腕輪から飛び出した白い物体。細く儚い糸。糸は音もなく発射される。

 粘着性の白い糸は魔導書に張り付............かなった。


 白い糸は窓に張り付いた。


 初めての実践は失敗に終わる。


 落ち込む私に微笑する師匠。


「初めての運用としては上出来じゃない! 後は命中率やいつでもどこでも発射できるように訓練」


 腕輪の中には森に棲む蜘蛛を模した魔獣やカイコガを模した魔獣が棲息している。

 私の戦闘の幅を広げるために師匠の家に行く傍ら、そいつらを狩っていた。

 素材は全て師匠に託す。試作品を私が身を持って実証する。三ヶ月くらいだったか、師匠と毎日、試作品製作をしていた。


 おかげで納得のいく代物が完成した。


 その代償に、アリサが森に入ると必ず、二種類の魔獣は逃げ出す。

 最初は敵討ちって向かってきたけど、今はもうない。


「腕輪はこれで、いい。で、問題はこれよ」


 師匠が手に持つのは万年筆。黒と金を意匠とした、見た目はどこにでもある万年筆。

 蓋栓と尾栓には光沢のある青い宝石が埋め込まれている。


「貴方が万年筆を持つお年頃ではないと思うけど?」


 フッ......フフフフ!! と鼻で笑う。


「師匠。世界は残酷なんですよ」


 アリサの言葉に間抜けな顔になる師匠。

 その若さで、イったかと思わせる表情。


「いくら私でも、魔力がないと何もできない貴族令嬢」


「魔力の代わりに、肉体改造してるんでしょう。同い年でここまで体を鍛える子......早々、いないわよ」


「人はやると言ったら、どこまでも突き進む生き物です。で、話を戻しますよ」


 魔力や体を鍛えたとしても、所詮女。程度が知れている。私には付与魔法が使えるから肉体を強化して、魔獣やさっきみたいな盗賊どもを蹴散らすことができる。

 しかし、だ。もしも、という事態は存在する。魔力を阻害する魔法があるかも知れない。魔力切れになって、後は蹂躙されるのがオチだ。


 その仮定を防ぐ案として魔力を貯蔵できるアイテムが必要になる。

 それがこの万年筆。端々に埋め込んだ宝石。予め魔力を注いでれば宝石内に蓄積される。師匠の計算が正しければ、永久的に貯蔵できるとか。


 魔力切れを起こせば、貯蔵した魔力から私の体へ供給される。

 いつでもお気軽に魔力補充ってね!


 で、なぜ万年筆か。


「貴族が持ってても違和感がない」


 服の内側でも外側でもポケットに入れれる道具。仮に持ち物検査されても怪しまれない。貴族のご令嬢がプレゼントで貰ったものとかと思うだろう。

 ま、女の子が高級万年筆をポケットに挿す姿は少々、おかしな光景だけど。


 しかも、ちゃんと文字を書くことだってできる。

 完璧だ。ここまで私の頭脳が冴えたことはない。圧倒的自画自賛。



 

 窓の外を見ると、日が傾き始めた。

 師匠との訓練に夢中になっていた。時間が経つのは早い。

 早く帰らないとお母様に折檻される。


 1、淑女としての教育マナーをぶっ通しで受ける。

 2、正座され、小言を浴びせられる。(お母様の威圧込み)

 3、お母様のおもちゃにされる。(着せ替え人形のごとく)


 主な罰はこの三つ。他にもバリエーションはある。

 その日の気分でお仕置きを貰う。なんともランダム性に富んだ罰だろうか。


 兎も角、家に戻らないとお母様との組んず解れつが待ち受ける。

 因みに、父様とバカ兄が私以上の行いをする......。いや、忘れよう。

 何もなかった......


 頭を左右に揺らし、面倒い思考はやめた。


「それじゃあ、師匠! また、明日!!」


 手を振りながら、自身に身体強化の魔法を掛けた。

 ダッシュで走れば、大丈夫。

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