第7話 遂にキタッー!!

 机に置いてある器具にアリサは目を輝かせていた。


 金属の細長い棒。黒色のプレートの形をした円型。円型の器具の中央にはくり抜かれた跡がある。丁度、金属の棒と同じ直径。薄い形だが、円型は鉄で出来ているので重い。

 一つだけではない。二個ワンセット。同じ重量の円型が二つ。これを金属の棒の両端部分に差し込む。後は外れないようにプレートを固定。


「完成ッ!」


 異世界でダンベルが誕生した。

 そう、アリサが父様に頼んだ物は筋トレグッズ。

 魔法はセシリア師匠がいる。体術もお忍びで森の魔獣を狩ることで鍛えられる。

 後は、アリサの身体そのものを鍛える。それにはトレーニング器具は欠かせない。

 動作確認を行う。


 定番のダンベルカール。


 重りをつけたダンベル。プレートは1kg。なんとか持てるが少々、キツい。

 だが、良いッ!! この筋肉が痛めつけられる感覚。中々に快感!


 両腕にダンベルを持つ。自然体の状態でまっすぐ立つ。

 前腕を捻って掌を上に向ける。このまま肘を曲げてダンベルを胸の高さまで持ち上げる。

 ゆっくり、おろす。これで一回。

 ここで注意しないといけないのが、反動でダンベルを上げてはいけないこと。

 負荷が弱まるのでトレーニングをしている意味がなくなる。


 机には1kgだけではなく、10kgまでのプレートが置かれてある。いつでも重量を調節できる。


「父様、ありがとう!」

 アリサのお礼と瞳のキラキラで父、テラー・カエルムは昇天していた。

 可愛い愛娘からのお礼。父親にとってこれほどの褒美はない。


 当主の奇妙な踊り。本来なら使用人に示しがつかない。でも、カエルム家では日常茶飯事の光景。当主に長年支えている老執事でさえ、咎める行いはしない。むしろ、心の中では嬉しさ全快だ。以前の当主と奥様に起きた事柄に比べれば、今のお二人は幸せそのもの。


 生まれたての子鹿のようにアリサに近づくテラー・カエルム。

 アリサに覆い被さる状態に見える。これは、父親と娘だけにしか聞こえないようにするため。口の動きで内容を悟らせないのも付け加える。


 極めて重要な内容。本当なら父親が娘にお願いだとしても、重りがついた器具を開発しようとは考えない。令嬢なら尚のこと。でも、了承した。


「で、父様。他の器具は?」


「今、着々と完成している。アリサが渡してくれた設計図をもとにね! 鍛治師たちも大層、やる気でね。喜んでいたよ!」


「それは、よかったです」


「でもね。流石に全てを一気に渡せない。いくら可愛い娘のためとはいえ、危険だからね。年齢を重ねるごとに渡すよ」


「それは、分かっております。今はこのダンベルだけで十分です! ありがとうございます、父様!」


 アリサの言葉に胸を抑えるテラー・カエルム。娘の言葉は父親にとって劇薬である良薬なのかもしれない。


「あと、僕の友人の研究者が進めているよ。例の栄養補助剤ってやつ」


 アリサは心の中でガッツポーズを取る。今度のために必要なアイテム。

 は未来に活用する。今はちゃんとしたバランスの良い食事を心がける。


 急にしおらしくなるテラー・カエルム。

 声も少しか細くなる。


「アリサが言った効果はあるんだろうね」


「勿論です。今日すぐには効果は出ません。ですが、週に二回〜三回と続けていけば、父様にも筋肉が付きますよ。体力の付け方は以前、お話した通りです。後は......」


 ネクタイを締め直す。瞳は熱意に満ちていた。


「それじゃあ、僕の自分専用器具でトレーニングしてくるよ。マーレのためにね」


 テラーは部屋を退出した。使用人も全ていなくなった。

 部屋にはアリサ一人だけ。


 に、してもお母様のためによくやるわね。

 これがの力か。我が父よ、勉強になります。


 実はトレーニング器具の開発と同時に肉体に生じる効果も父親に細かく説明したアリサ。嘘偽りなく。


『体力と筋力を鍛えれば、夜でも大活躍します』、と伝えた。

 その言葉を聞いてから、仕事の合間に毎日、トレーニングし出すようになった父様。

 全ては、愛する妻のために。


 両親のことは両親だけの問題だ。

 どっちがケモノになっても今の私には対処できない。

 後はお二人でお楽しみください!


 愛する両親に敬礼した後、アリサはダンベルで鍛錬を開始した。

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訳あり令嬢 〜聖女に転生した元魔法少女、筋肉や物理攻撃の力技に興味を持つ!〜 麻莉 @mariASK

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