第2話 魔法に満ちた異世界でした

 この世界は、魔力に満ちていた。


 前世の現代社会では、あり得ない現象。


 私たち魔法少女のような例外を除けば、魔力を持った人は存在しない。


 でも、この世界はみんなが魔法の力を与えられている。


 人は勿論、窓から見える小鳥さんたちも微量の魔力を持っていた。


(ってことは、みんな魔法少女になれるのか)


 異世界に来て、数年。


 私の率直な感想だった。


 でも、私は知っている。


 魔法を手に入れても、絶対的ではないことを......


 ならば、どうするか。


 どうすれば、長生きできるのか。


 答えはシンプルだ。


 誰にも負けない身体をつくりあげる。


 枯れることのない魔力。


 貫かれない強靭な肉体。


 圧倒的な攻撃力を手に入れる。


 己を鍛えるのに、私の家は実に好都合だった。


 私の家は、田舎ではあったが領地を統治する貴族様。私、アリサ・カエルムはそこの娘として生を受けた。上に兄が一人いる。


 本当は、王都でそれなりの地位にいて、豪華なお城に両親は住んでいたらしい。


 詳しい理由は教えてくれなかった。


 ただ、お母さんでもあるマーレ・カエルムは『大きくなったらお話します』、とだけ聞かされている。


 優しいお母さんは、この時だけは悲しい顔をしていた。


 これ以上、突っ込めば心労が祟るかもしれない。


 なので、この話は一旦、保留にしてある。


 さて、話を戻す。


 広大な庭を活用して日夜、己の身体を鍛えている。前世の格闘技、武術全てを自分の体に刻み込んでいる。勿論、家族や使用人には内緒で。


 だって、か弱い乙女が、戦闘民族みたいな修行をしているんだ。

 昏倒することは間違えない。


 物理の鍛錬と並行して、魔法の抜かりがない。毎日、魔法でつくった膜を纏っている。常に魔法を放出した状態で日常生活を過ごせば、自然と魔力の総量も増えるし、敵からの突発的な攻撃も防げる。


 これも全て、偉そうなシーショのおかげでもある。みんなと回収した書物には前世のあらゆる知識が記されていた。本を読み、自らの知識に加えることも可能だった。

 前世の私は、二人よりも何倍も本を読まされていた。


 今となっては、いい思い出だ。


 ちゃんと魔力を扱えれる年齢になってから毎日、全力で魔法の鍛錬も開始した。流石に初めは上手く行かず、ヘロヘロだったけど。


 そんな修行を数年やり、次の段階へ進むことにした。


 実は父、ムンドゥス・カエルムにおねだりをして作ってもらったものがある。


 内容を説明した後は、驚くしかなかった父も『可愛い娘のためだ!』と身体を燃やしながら、王都にいる最高の鍛治師に依頼してくれた。


 ま、数日屋敷を離れていた父が浮気したと思い込んだお母さんは冷酷な笑みをしていたのは遠い過去。いやぁ、凄かったな......


 本を閉じる。馬車が屋敷に向かってくる音が聞こえたからだ。


 ウキウキしながら、部屋を出た私。


 屋敷から出た私を待っていた馬車。

 例の物がない? 荷台にはお目当ての物は積んでいなかった。


 扉が開く。


「ゲェ!?」


 待ち遠しいかった物が届いた嬉しさを上回るダルさが私を押し寄せる。


「『ゲェ!?』とはなんだ。アリサ」


 馬車から降りた男性は私に苦言する。お互い心の底から嫌ってはいない。私たち兄妹きょうだいにとってはこれが通常運転。


 私の前にいるのは兄、テラー・カエルム。父の遺伝を受け継いだ金髪碧眼イケメン。

 因みに、私はガッツリお母さんの遺伝を受け継いだ白銀ロングヘヤーの碧眼美少女!


 本来、妹なら屋敷に帰ってきた兄を快く出迎える。


 でも、兄の素行と言いますか。雰囲気と言いますか。慣れないから嫌な妹を演じている。塩対応の妹と爽やかな兄。


「今日も、オモテになっていますね。お兄様!」


 両手に花とは、まさに兄に相応しい言葉。

 兄の両腕をそれぞれ掴んでいるのは同世代の女の子たちだった。


 父の遺伝子を色濃く受け継いでいるバカ兄。もうすぐ十歳になるのに、爽やかなスマイルは完成されている。結果、街や王都に行けば大体一人か二人は一緒に屋敷に来てしまう。

 リアルハーレム野郎って、本当にいたんだ。


 私からの明らかな嫌味。だが、妹の戯言を気しないのが私の兄である。


「僕の色気に女の子は夢中なんだ。これも運命さ!」


 けっ、言ってろ!


 兄は女の子と一緒に屋敷の中へ入って行った。

 私はため息を吐く。


 人の人生にケチをつける趣味はない。でも、毎日別の女の子が兄と一緒にいるのは許容できない。


 誤解を招くようなので、一応、補足されてもらうけど。

 兄はあんな感じだが、ゲスな行為はしない。


 寧ろ、誠実な男性だ。魔法も優秀な人。


 今頃、三人で兄の部屋で談笑でもしているのだろう。


 で、楽しい気分のまま女の子は帰っていく。

 ちゃんと兄が送ってね!


(魔法学園に入学したら、大変だろうな〜)


 貴族は十五歳になると王都にある魔法学園に入学する。

 私も兄もその予定。


 一時間は、その場にいた。仁王立ちで。


 だが、まだ来ない。


 あー、暇だ!


 ストレスは美容の大敵。


 そう思い、私は修行しに森へ向かうのだった。








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