第4話 八枚目

それから、七枚目の絵を後ろに回して八枚目を見る。小さめのゴリラに近寄って、顔を覗き込んだ絵だ。牧田は無言だ。俺の様子を探っているのかもしれない。


俺は八枚目の絵によって、自分の常識が崩されて、静かに混乱する。この生物はゴリラに似ているが、ゴリラではない。額もまるで現生人のように広い。一体何者?


「駿河台さん」という牧田の声に、俺は諦めて顔を上げた。「その続きの絵が鞄に有るのですが、ご覧になりますか?」と続ける。


俺はハッとした。そうだ、万引き犯に繋がると我慢して絵を眺めていたんだ。続きの絵に万引き犯でも描かれているのかな?それさえ知れれば、ゴリラに似たおそらく想像で描いたのだろう生物の正体を知る必要はないのだ。それで俺は「万引き犯を探すヒントになるんでしょ?是非」と言う。牧田は「万引き犯探し。万引き犯に繋がる存在もまた描かれています。ただし、万引き犯の正体はあなたの常識を覆すかもしれません。知る覚悟も必要かもしれません」と、真剣に言う。それから、ゆっくりと立ち上がり、入口へと歩き出す。俺を横切って、部屋入口の障子を開く。さらに廊下に出るとガラス戸も開いて網戸にする。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る