昔話

「さーて、実は次のお話がメインなんだよね〜。みんな、聞いてくれるかな」


:どんな話かわかんないけど聞くぞ!

:もちろん!

:聞かせてー!


「ふふ、ありがと!じゃあ……話していこっか。私の昔話を」



「むかしむかしある所に純新無垢な少女が居ました。少女は人と関わることが大好きでたくさんの友達を作っていました。お話をすることが好きで両親には今日あったことなどを沢山話し、笑い合う。それはそれは仲睦まじい家族の中ですくすくと成長し、気づけば高校一年になっていました。


少女の周りにはたくさんの友達がおり、その中でも特に信頼を置いている人達が居ました。両親を含めて4人。父、母、親友、恋人。在り来りではありつつもこの4人を心から信頼していました。


高校一年生にもなると明確な将来の夢というものが出てくるようになります。少女が夢見た職業は声優でした。自分の声をたくさんの人に届けることのできる声優を本気で志し夢に向かって行くことを決意しました。

……しかし、この選択が全てを狂わせてしまったのかも知れません。自分の夢を両親に話す。そこから、関係に亀裂が生じ始めました。


私ね、声優を目指そうと思う。そう両親に告げると、いつもはニコニコと話を聞いてくれる両親が少し怖い顔をして、ダメだ。考え直しなさいといった否定の言葉をを口にしました。


ですが、少女は諦めませんでした。何日も、何日もかけて説得を続けました。きっと両親は自分の将来を心配して、不安定な声優という職業を否定しているのだと思い何度も何度も……しかし、それが仇となったのかも知れません。


そんな馬鹿げた職業につくことは許さん。お前はせっかく頭が良いのだから弁護士なり、医者なり、とにかく給料の高い職に就いて老後の私たちを養わなければならないんだ。今まで育ててやった恩を返せ。夢なんてものは持たなくていい。私たちのためだけに仕事を選べ。


そう言ったのです。少女は両親の言っている事が信じられませんでした。何かの間違いだと。しかし、現実はすぐに突きつけられることになりました。自分たちの思い通りに動かない娘を見た両親は痺れを切らし絶対に行っては行けない方向へと舵を切り始めたのです。


暴力、暴言に始まり、人格否定、日々の嫌味や小言、雑事の押し付け、食事を与えない等の行動に出たのです。少女はいやでも理解することになりました。両親は本気で自分を老後の為の道具としか見ていないのだと。今まで楽しくやってきたのは嘘だったのかと、あの会話は、あの笑顔は全て虚像だったのかと……怖くなりました。長年時間をかけて積み上げてきたものが崩れ去る。それは一瞬なのだと初めて知ってしまった瞬間でした。


当然、信頼する人物のうち2人、しかも実の両親から裏切られた心の傷は深く、少女は酷く落ち込みました。そんな少女を慰める人物が2人。親友と恋人です。親友とは幼馴染で同性の中で最も一緒にいた時間が長いお互いの事を深く知った相手でした。恋人は中学3年生から付き合って居る男子で、よくモテるのに紳士的で一途なアプローチに負けて付き合いだした人物でした。


ずっと一緒にいる。私たちは裏切らない。きっと幸せになって、夢を叶えて、両親を見返してやろう。


2人は少女をキレイな言葉で沢山励ましました。両親に裏切られた心の傷を埋めるように2人との時間が増え、今までの何倍も2人のことを信頼し、頼るようになりました。

私たちはずっと一緒。そんな言葉を信じて前を向こうと決意しました。


それもまた、間違いだったのかもしません。少女深く後悔することになります。両親の裏切りから何も学んでいない自分を恨むことになります。


高校3年生。両親との問題を抱えつつも何とかやってきた最高学年。……少女は違和感を抱いていた。恋人の様子がどうにもおかしい。何処かよそよそしい態度になっており、疑いたくはなかったが何かあるのではと考えた。ちょくちょくデートを断られる日。何かあるとすればその日だと思いそれとなく恋人の家に様子を見に行った。


そして、その家に……親友が入っていく姿をその目に捉えた。居てもたっても居られなくなり恋人の家に突撃した。


そして、目の前にはキスをする2人の姿ガあった。止めどなく流れる涙を無視して2人を問い詰めると恋人は俯き気まずそうにするだけ。親友は楽しそうにケラケラと笑って

もしかしてもうバレた?

と言っている。


絶望した。その言葉の意味を考えるまでもなく理解したからだ。絶望なんて言葉では表せない。怒りと、恐怖が心の中で荒れ狂う。


昔から何でもそつなくこなすアンタが嫌いだった。いつだって自分は2番手で勝てないことにムカついていた。だから、彼氏を奪ってやった。やっと1番を勝ち取れた!


そう嬉しそうに語る親友だった何かを直視することが出来なかった。先程まで恋人だった物も

ごめん……

そう呟くだけだった。


少女は心を閉ざした。誰も信用せず生きることを固く誓った。それもそのはず最も信頼していた者たちに裏切られ、約束を反故にされたのだ。人を信じろという方が難しい。あの日した約束はなんだったのか。慰めも全部嘘?昔から嫌いだった?嫌いなのにずっと一緒にいたの?怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。

理解できない。したくもない。



あの日からはや2年。少女は声優の仕事を諦め、VTuberになっていました。誰ともコラボをしないスタイルを貫く配信者として。心の傷は癒えることなく、現在も少女を苦しめているそうです……」


「どうでしたか?こんな過去がある人も居るんです。


約束は嫌い。どうせ破られる。

信頼も嫌い。どうせ裏切られる。

人が怖い。理解の及ばないことを平然とやってのけるから。


そして何より……自分が怖い。


あんなに裏切られて、約束を破られて、なのに、また、性懲りも無く誰かを信じようとしてる、自分が……怖い……」



勢いよく自分に突撃してくる人がいる。突撃ではなくハグなのだが、その勢いがすごい。苦しそうな、それでいて優しく抱きしめてくる人は……きっと彼女しかいないだろう。

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