やっぱり好き

こんな時こそ冷静に。一旦状況を整理して最適解を導き出そう。


まず手は使えない。結構しっかりと押さえられてて抵抗できそうにない。次。


足は陽菜の足が差し込まれてて思うように動かせないから抵抗しずらい。次。


顔。正直キスがうますぎて腰が砕けそう。

でも口が離れたタイミングなら頭突きくらい出来そう。私も痛いだろうけどここは我慢するしかない。


…………っ今!


「い゛っ!」


ゴンッという鈍い音がして続け様に痛そうにする声が聞こえてくる。私もヒリヒリしてるし、声出そうになった。


やっとのことで開放された私はその場にへたり込む。


……危なかった。何か、新しい扉が開きそうな気がした。


貞操の危機を脱した私はズルズルとベットに向かい布団にくるまる。


「……変態変態変態!」


陽菜の方を見ると涙目でおでこを押さえてこっちを見ていた。


「何こっち見てんですか。変態のくせに」


「あ……あぁ……嘘、私は、何をして…え、嘘でしょ、やってるわ、やってしまったよ……!」


どんどん顔の色が真っ青になっていき頭を抱え出す陽菜。


「ご、ごめ、、ごめんっ!ほんとに、何て言ったらいいか、わかんないけど、本当にごめん!殴ってくれても良いし、蹴り飛ばしてくれてもいいから……許して欲しい……」


スライディング土下座を決めて、見てるこっちの心が痛くなるような声色で謝罪してくる陽菜。……流石に気の毒になってきたし、許してあげるか。


……不快感は、無かったし。


「許してあげます。感謝してくださいね、変態さん」


「ぐふっ……」


なんかダメージ受けてる。


「まあ、私も色々頼りきりで負担かけてたでしょうし、これくらいなら、まあ……」


「え?これからもしていいの?」


「そんなこと言ってません!」


そんなわけないでしょうに。急に顔上げてキラキラした目を向けてこないで欲しい。だいたい私なんかとキスして何になるんだろうか。


……というか、なんて私にキスしてきたんだろう。どゆこと?私の家に通うことで性欲が発散できなくて、有り余った性欲を私にぶつけてしまった的な?


……有り得るなぁー。陽菜変態だし。


「あの、性欲が溜まってるなら私に言ってください」


「ふぇ?……それって私で発散していいよ的な?それとも手伝ってあげるみたいな?」


「は?いやいや、1人でしてくださいよ。自分の家で。……全く、これだから変態は」


いつからこんなに変態になったんだ?それとも今までは思ってたけど口に出さなかっただけ?どっちでもいいけど私の前では普通にして欲しい。変態の相手は疲れる。



「ごめん。……てか、流石に出かける雰囲気じゃなくなっちゃったね、どうしよっか?」


「このまま家でゴロゴロしますけど……」


「なら!せめて気分転換でゲームでもしよ!うん、そうしよう!」


そう言って私の手を取ってリビングにひきずりだす陽菜。


なんだかんだ、私を慰めようとしてくれてて、寄り添ってくれて、ありがたいな……


それと同時に、離れていく怖さ。裏切られた時のショックの大きさを考えて泣きそうになる。ここまで深く関わってしまったら……もう戻れないなぁー。どんな形であれ、いつか大きな傷を作る原因になっちゃう。


……でも、今だけはどうか、裏切らずに私のそばにいて欲しい。今だけ、今だけだから……

握られた手をギュッと握り返した。



「よーし、今日はこのゲームをしよう!」


そう言って陽菜が取り出したのは誰もが1度は遊んだことのあるあれだった。


「スーパー・ハリア・シスターズかぁ……懐かしいですね」


「でしょ〜?協力プレイで一緒にやろ!」


私達は早速プレイを開始した。久しぶりにやるからか操作が覚束無いけどそれがまた楽しくて気づけば中間辺りまで進めていた。


「うわぁ〜!ちょっと待って!死ぬ死ぬ!」


「ふふ、ちょっと何してるんですか!」


陽菜とのプレイは本当に楽しくて、時間を忘れて楽しんでいた。


あっ、死んだ……ふふ、今のところ配信してたらリスナーも笑ってくれただろうな……


そこでハタと気づく。陽菜に気付かされたと言ってもいい。


「……好きだなぁ」


「え?……ふぇ!?す、すすす、好き!?」


やっぱり私は、配信が好きだ。たくさんの人と笑い合えるそんな、あの環境が好きだ。

顔も見た事ない……まあ、それがいいんだけど。そんな人たちと冗談言いながらゲームして、雑談して、そんな時間が好きだった。


眠れないからだとか、やることが無いからとか寂しいからとか。色んな理由を、言い訳をしてきたけど、結局は配信が好きだから、長時間配信だってしてたし、それを続けることが出来ていた。


今も、こんなにメンタルが落ち込んでいるのは大好きな配信が出来なくなるかもって、そんな喪失感があったからだ。社長の裏切りとかどうでもいい。そんなに親密でもないし。


だから私は、配信をしなきゃ。今すぐにでも。

私のことを待ってくれているリスナーのためにも、これから活動を続けていくためにも。

私の生きがいを守るために。


「うん。大好き。やっと気づけた。本当に大好きなんです!」


「え、えぇ!?そ、そんな急に…!まだ心の準備が…と言うか…なんというか」


なんか隣でモジモジしてボソボソ言っている陽菜を無視してパソコンに向かう。


さあ、始めようか。私の復活配信を。

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