居場所
あの日から数日。配信もしばらく休止。家から1歩も出ずに引きこもっている。
何もする気力が起きなくてベットで蹲る毎日。
今回のことだって今までと一緒なのに……何故かダメージが大きい。自分のメンタルがここまで弱くなってるなんて知らなかった。
陽菜が間を取り持ってくれて、社長から正式な謝罪があった。事務所から世間に向けた謝罪文も公開され、私のリスナー含む多数の人達が事務所を非難した。対応が早かったためか炎上ってほどでもなかったが、悪いイメージはついただろう。
もっとも、私の配信でやり取りが垂れ流されていなければこんなに早く動くことは無かったんだろうなって考えている。
今まで何度も崩されながらもようやく大きく積み上げてきたものが根本から崩された気がして今までで一番病んでいる。
その証拠に……いつにも増して、眠ることが出来なくなった。元々不眠症気味で眠れなかったのに、さらに悪化した。少し眠れてもすぐに起きてしまう。……ただ一つ、例外を除いて。
誠に遺憾ではあるけれど、陽菜と一緒に寝ると、朝まで、起きることなく眠ることが出来た。それに、抱きついて温もりを感じている時は情緒が落ち着くから……ずっとくっついてる。
自分でもヤバいなって自覚できるくらい情緒不安定になってて、急に涙が出てきたり、壊れたように……笑い始めたり。自分が怖くなってくる。でも、陽菜と一緒にいる時は、何故か普通でいられる。
信用したわけじゃない。でも、手放せなくなった。あの温もりを、安心感を、ずっと手にしていたくて。
まるで薬物みたいに、ズブズブと依存しているようで。このままじゃダメだって思うのに、体は言うことを聞かない。
早く離れなきゃ、早く関係を絶たなきゃ……関係が深まれば深まるほど……裏切りのダメージは大きい。
無条件の優しさが怖い。でも手放せない。
ずっと傍にいるなんて信じられない。でもずっと傍にいて欲しい。
心が矛盾を抱える。その矛盾が大きくなる度、引き裂けそうになる心。ギリギリと軋んで私を傷つける。
自分が壊れてく。自分が溶けていく。ドロドロになって、別の何かに変わるような感覚に陥る。
それが怖くなって陽菜にしがみつく。安心する、恐怖が増長する。
相反する気持ちが同じくらい高まって、より一層脳が溶ける。
意識が、理性が、溶ける……溶ける。まるで……じゃない。正真正銘、薬物だ。脳が溶かされて、依存していく。リスクと快楽に踊らされていく。
何もかも捨てて、ただ依存するだけの存在に成り下がる。
これが、ココ最近で感じる感情全て。 まともな思考ができない私の感じる事。
てぇてぇ?これのどこが尊いのだろうか。一方的に頼るくせに、怖がって離れたくなる。
まあ、どうしようもないし、メンタルが回復するまでは寄りかかるしかない。じゃないと行き倒れてしまう。
渡した合鍵で入ってくる陽菜に抱きつきベットに引きづり込む。安心感のあるぬくもりによってひと時の睡眠へと旅立った。
━━side陽菜━━━━━━━━━━━━━━━
あの日から。全部だめになってしまった。
キラキラと輝く瞳はもう、何も映さなくなってしまった。
どこまでも暗く、奥まで広がる闇を孕んだ目。ハイライトが入ること無く絶望を体現した瞳をしている。
これは、私のせいだ。調子に乗ってスパチャを送った私のせい。
助けるなんて、居場所になるなんて息巻いた結果がこれでは笑いものだ。
居場所にはなれているのかもしれない。でもそれは、望まぬ形で。
これでは依存だ。私なしでは生きられない。状態だ。これは、こんなことは望んでない。依存してくれるのは嬉しい。でも、こんなに悲しい依存の仕方は違う。
大好きで大好きで片時も離れたくないって感じの依存なら大歓迎なのに……
それもこれも全て私のせい。そして社長のせいだ。あの後雪ちゃんのスマホを奪い取って社長に猛抗議をした。正式な謝罪を求め、この事を世間に公式として公表し、償えと、そう言った。そんなことをしたって雪ちゃんの傷は癒えないし、望んですらいないかも知らない。
でも私が許せない。無理やりコラボさせようとするからこういうことになるんだ。
必ず元の雪ちゃんを取り戻す。どれだけ今の雪ちゃんに抱きつかれても幸せになれない。悲痛な感情と恐怖だけが伝わってくる。
眠る雪ちゃんのあどけない寝顔を眺めながらそう誓った。
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