放送事故

頬をツンツンと突かれる感覚で意識が浮上していく。その間にも頬を弄くり回す感覚が絶えず与えられる。意識がある程度覚醒し、頬を触る人の正体を思い出し飛び起きる。


「うぉっと·····急に起き上がんないでよ〜危ないじゃん」


間延びした、まるでアホを体現したかのような声に夢から完全に引きずり出される。


「·····まだ居たんですね」


「そりゃぁ〜寝てる人を置いて帰るわけないじゃん?それに、寝顔可愛かったし!」


無言で近くにあったクッションを投げつける。


「わぷっ!」


·····顔面クリーンヒットだ。


「さすがに酷くない!?もぉ〜!罰としてもう少し私の膝枕を堪能しろ〜!」


「ちょ、やめてくださいってば!」


ゴリラ·····もといゴリラ·····あれ、変わってなかった。まあ、とにかくゴリラパワーを持つ彼女に勝てるはずもなく再び太ももの上に寝かされる。


·····普通に寝心地が良いのが何りよもムカつくポイントだ。


「ふっふっふ〜!どうよ!私の膝枕は!最高の寝心地でしょ?」


「·····いえ、気分としては最悪ですね」


膝枕に対してのその過剰なまでの自信はなんなのだろうか。

仰向けなので必然的に顔を合わせることになるので非常に不愉快である。



·····顔が見える?


あぁなるほど。


「どったの?さっきから私の顔まじまじと見つめちゃって。惚れた?」


「いえ、膝枕状態でこんなにしっかりと顔が見えるってことは貧乳なんだな〜と」


その単語を放った瞬間彼女の笑顔がピキっと固まる。


·····なるほど?これは多分、地雷だね。


「ねぇぇぇ?流石にさぁ?言っちゃいけない事がある事分かるよね。ん〜?しかもさぁ!こんなタイミングで·····!!」


「こんなタイミング·····?」


「あぁ、そういえば言ってなかったね。雪ちゃんさぁ、配信切り忘れてるよ」












·····は?



いやいやいやいやいやいやいやいやそんなまさか。


震える身体を無理やり奮い立たせてパソコンの前に向かう。真っ黒の画面を元に戻す。するとそこには·····


配信中の文字が。



「え、え·····嘘、でしょ·····」


ショックではあったがとにかくまずは配信を終わらないといけない。

無言で配信終了のボタンを押す。とてつもない速度で流れるコメントはこの際とりあえず無視だ。


1度落ち着いて深呼吸をして、それから後ろにいるゴリラを睨みつける。


「なんで、言ってくれなかったんですか·····?あれですか、私が炎上すれば好都合って事ですか?そうですよね、ライバルが1人消えるんですもん。めちゃめちゃキャラを作ってる事が世間にバレればイメージダウンは免れないですし·····これが狙いだったんですか?」


「ちょいちょいちょい!流石にそんな訳ないじゃん!配信が切れてないのは雪ちゃんが寝た後に初めて知ったし起きたあとも伝えようと思ったけどタイミング見失って·····」


「どうやって配信が切れて無いと気づいたんですか·····」


「雪ちゃんガ寝た後に事務所から電話がかかってきてさ、それで初めて気づいたわけ」


電話·····?そういえば寝る寸前に電話の音が聞こえたような気がする。一応携帯を確かめてみると確かに事務所から電話来た履歴が残っている。


「それにさぁ!キャラが違うのはこれからキャラ変して素を尊重した感じにすればいいけどさ!私の!胸の事情は!一生弄られ続けるんですけど!!!」


「ざまぁないですね」


「むきゃぁぁぁぁぁ!」



ダメだ·····終わった·····エゴサしたくないなぁ·····

どうせ炎上してるんだ。もうヤダ。とりあえずもう寝よ。


「あれ、どこ行くの?」


「寝ます」


「そうなんだ。·····え、なんで私も連れて行かれてるの?」


「喋らないでください。貴女は抱き枕として生きていくことになったんですから」


私が寝てる時も·····多分何もしてきてないし、害意は感じられない。そう言うのは人一倍敏感だからここまで話していて間違ってるってことは無いはず。どうせ一度寝てるんだし2度も3度も変わらないでしょ。


「え?なに急に!デレ?デレなの?」


わーきゃー煩い抱き枕をベットに転がして自らも久しぶりにベットに身を沈める。布団と抱き枕を抱き寄せ顔を埋める。


·····何こいつ。柔らかいしいい匂いするんだけど。ムカつく。胸無いくせに·····


イライラも不安感も全部忘れて私は眠りについた。

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