第2話

次に目を開いた時、坂川は見知らぬ場所に立っていた。光の残像で視界が判然としない中、クリアになった景色を見ると思わず息を呑んだ。なんと視線の先には燃え盛り黒煙を上げる無数の建物があった。紅に染まる光景の中、開いた口が塞がらずポカンとマヌケに口を開いていた。一帯には木造の建物が崩落している様や荷物を背負って急ぎ足で去る青年の姿があった。そんな中、坂川は呆然と突っ立っていた。満「痛っ!」いきなり坂川の肩に強い衝撃が走ると呻いて石畳に尻もちをついた。中年「イテェなぁ、おい!」頭を上げると立派な中年オヤジが鬱陶しげに見下ろしてきた。満「す、すみません!!」イカつい顔でジロリと見られ、ビクッと怯えておずおずと謝る。満「本当に…すみませんでした!」坂川が思いっきり頭を下げるのをみた中年はフンッと鼻を鳴らし、最後に唾を吐き捨てて足早に去っていった。坂川は中年が通り過ぎるまで体をビクビクと強張らせていたが、中年がいなくなると安堵の一息を吐いて全身の力が一気に抜けた。ふいに坂川が周囲を見渡すとそこは大通りだったようで周囲は開けていて、多くの人が行き交っていた。とはいえ、今は一方向へ人が雪崩を打つように向かっているようだった。満「これってあれか、地震にあって街が大火に包まれたってパターンなのかな?」坂川はそう言うと首を傾げて思い悩んだ。満「まぁとりあえず危ないんで立ち去っておこうっと、」坂川はその人混みの流れをみて、その先に避難所があるのだと思って駆けていった。


向かった先には壊された大きな桟橋があり、崩落したのであろう黒く焦げた木材が水に浮かんでいたり、石材が川底から突き出していたりしている。それを見た坂川は戸惑ったがよく見ると人々は桟橋の隣りにある漁港らしき港から小舟に乗って出港していた。人々は船着場にて行列に並んで小舟に乗る順番を待っていた。その結果、大勢の人集りができてなかなか前へ進めないでいた。坂川は桟橋に上がり、行列の最後尾に並んだ。行列は進み、やがて坂川の番が来た。桟橋の船着場の前には小舟が浮かんでいて、船頭らしき男が一人乗っていた。その小舟には屋根があり、椅子が備えつけられていた。どうやら手漕ぎの小舟で対岸まで渡るらしい。坂川は「よっこいしょっ」と声かけをしていそいそと、小舟に乗った。船頭はオールで水を掻きながら桟橋から離れていく。徐々に船着場から距離が離れ、遠くなっていく。小舟に揺られながら、坂川は小舟から見える景色を眺めた。どうやら見た感じは他の船も似たようなものだ。

やがて小舟は桟橋から離れて、流れのある川の真ん中くらいのところまでやってきた。周囲には他の船が浮かんでいた。その船の甲板から手漕ぎの小舟に乗り換えて対岸へと向かう人々もいた。どうやらこの船はそういうこともできるらしい。「なるほどな」と坂川は呟いた。そして彼は対岸の辺りを見渡した。対岸にも船着場があって、その周辺には人々が並んでいた。坂川と同じように小舟に乗ってくる人々もいるが、桟橋辺りから見物している野次馬も多い印象だ。「あそこか!」と坂川は歓喜の声を上げた。やがて小舟は対岸へと到着した。彼は船頭にお礼を言ってから船を降りた。そして再び周囲を見渡した。そこには先程見たような行列はなく、ただ人が疎らに歩いているだけだ。まばらに立っている人々は皆一様に安心感と疲労感を感じさせる表情をしていた。坂川はその人々の中に紛れていくと人の流れを通り抜けたり、街中を散策したりして、様々な人々や場所を見て回った。人々は皆それぞれ異なる行動をしているように見えて、やはりどこか皆んな哀愁を感じさせる顔をしていた。他にも坂川は様々な場所を巡り歩いた。例えばある人は商店の列に並び、ある人はただそこで突っ立って悲壮感に浸っていた。そして彼らは一様に「何がどうしてこうなったんだ?」と混乱しているようにも思えた。坂川にはその人々の気持ちがよく理解できたし、共感もした。坂川もまたこの見知らぬ土地で孤独を感じていたからだ。同時に自身が抱くこの感情は周りの人とは違うものだと自覚していた。なぜなら坂川は生まれて初めて置かれた環境に大きく混乱し、焦っていたから。坂川は様々な場所を巡り歩いたが、やがて彼はある場所に辿り着いた。そこは大きな広場だった。その広場には大勢の人々が集まっていた。人々は皆一様に同じ方向を向いていて、その表情はどこか安堵しているようにも見えた。坂川も彼らの視線の先へと目をやった。そこは大きな避難所のような施設だった。施設には修道士に似た服装を着た人達が慌ただしく右往左往していた。どうやらこの修道士達が施設を管理しているみたいだ。坂川は施設の入り口へと近づいていった。入り口には武装した兵士のような者達が立っていて、中に入る人々を検査していた。しかし彼らは特に何かを尋ねることもなく淡々と人々を中へ通していく。どうやら身分証明書の類いは必要ないようだ。「やっぱりこの場所は異世界ファンタジーなんだなぁ」と坂川は思った。坂川は修道士達に連れられて建物の中へと入っていった。建物は天井が高く広々とした空間で、大勢の人々がいた。そこには椅子やテーブルが置かれていて、人々はそこで食事をとっていたり、談笑していたりした。坂川は修道士達に連れられて、ある一角へと案内された。そこには大きなテーブルがあり、その上には食事が並べられていた。「どうぞお食べください」と修道士の一人が言ったので坂川はそのテーブルにつき、食事をいただくことにした。その食事はパンやスープといった質素なものだったけれど、それでも空腹だった坂川にとってはとてもありがたいものだったし、何より美味しかった。こうして坂川は異世界での初めてとなる食事をゆっくりと堪能したのだった。そして食事をとりながら坂川は修道士から様々な話を聞いた。その話を要約するとこうだ。まずこの世界は「システア」と呼ばれ、地球とは異なる世界であるということ。そしてこのシステアには現在、『異界の門』と呼ばれる異世界とのゲートが存在し、そのゲートが暴走しているということ。最後にゲートは坂川のいる街の中心に置かれていて、そこから魔獣が溢れ出し続けているということだった。さらにこの世界には魔法が存在していて、人々はそれを使って生活をしているということだったり、この世界の通貨は「ゴールド」であり、1ゴールドで1円くらいの価値があるということだったりと色々な話を聞くことができた。坂川は修道士からより詳しい話を聞いたり、実際に魔法を見せてもらったりした。そして最後に彼は「このシステアは地球とは全く別の世界であり、自分は異世界に転移してしまった」ということを強く認識した。

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