第4話 それでも……

 次にしたことは、執筆力の底上げだった。

 小説は、自分の内面を書きながら、外側からの圧力によって、心の流れが変わりながら、心が変化しながら、ゴールに向かって行く物語りだ……。


 今は、10ベージだが、全部で30ページ書く中で、15ページ位で、話の流れの転換である、物語りを揺り動かす、ミドル・ポイントを設けると良いとされる。


 また、物語りのプロットでは、話の場面の切り替えで起こる、ツイスト、どれだけ、凄い強敵が現れ、それに、どう立ち向かうのか? という、対立、危機の訪れによって、苦しくなっていく、状況や焦りである、貫一の苦しみである、深刻化の3つがある。


 確かに、学術的には、そうなのかもしれないが、貫一は、まだ、それらの考えを理解していない、貫一は、現時点では、万人に見せるわけではないないので、好きなやり方で、書いている。


 そんな中で、執筆に取り組んで、部屋にこもる事が多くなると、必然的にアパートの外に出ることが、少なくなり、お金を使う機会が無くなっていった。

 その事で、貫一の財布は、温かい……。

 このままでいけば、通帳に、1万円のお金を残すことが、出来そうだった。


 貫一は、執筆に取り組んでいるが、そんなに、ハードな生活を送っている訳でないので、土、日と休むと、彼の体調は万全だった。

 しかし、貫一は、そんな生活を羨む、健常者たちが沢山いる事を知っている。出る杭は打たれるように、貫一は、彼らの格好の標的になっていた。


 春の気配がしてきて、今日はとても暖かい、2月の中頃になると、梅の花が咲くのかなと、貫一は、コートを脱いで、そばにある椅子に掛ける。


 この作業所には、通院しているが、薬を貰っていない、仲間がいた。彼は、貫一からしてみれば、健常者であるが、色々な事情を抱えている人の様だ……。


 この男を、五十嵐純二と言う……。


 純二は、キックボクシングをして、プロテストで、リングに上がったことのある、  男と、好んで、つるんでいた。彼の上腕は、筋肉が盛り上がって、如何にも格闘家と言う感じの男であった。

 彼の繰り出すパンチは、鉄板をぶち抜くほど強烈だ。


 この男を、草薙マサルと言う……。


 マサルと純二は、二人で、虚弱な男に、好き勝手に、暴言を吐いていた。貫一は、彼らを止めるべきなのだが、2対1で、片割れは、プロボクサーとなると、不用意な言動は慎まなくてはならなかった。


 マサルは、虚弱な男に、「やれよ」と言ったり「ポチ、早くしろ」などと言って、彼に、暴言を吐く様子は、見ていて不快そのものだった。

 しかし、貫一は、二人が怖く、虚弱な男の災難を、見て見ぬふりをして、その様子をうかがっていた。


 すると、貫一は、友達の裕司に、電話で、このことを、相談することにした。

 その夜、貫一は、裕司に連絡した。

 「もしもし、裕司さんですか?」

 「はっ、はっ、はい、貫一さん、どうしたんかね?」

 裕司は、貫一の話を聞く……。

 「あのさ、マサル達が、虚弱に、暴言を吐くんだ……」

 裕司は、「うん、うん」と聞いた。


 裕司は、自分の感じ方を聞かせた。

 「俺も、作業場で彼らの行動をみていたけれど、あれは、行き過ぎだと思う、あれじゃ、虚弱がかわいそうだ」

 「そうだよね、じゃあ、どうすればいいんだろう?」

 「職員に相談した方がいいよ」

 「そうね……」

 しかし、チクッタと、言われるのが嫌で、中々、職員に相談出来なかった。

 次の朝、貫一は、陰で痛めつけられている、虚弱な男を、これ以上、見続けるのは、我慢出来なかった。

 そこで、マサルに言った。

 「ポチ、ポチって、言うな……」

 すると、貫一の一言に、二人は、激怒した。

 「なんだと……」


 物凄い、剣幕で、二人は、貫一を責めた。

 貫一は、抵抗できなかった。


 焼きを入れられると、貫一は、虚弱な男を、救えない力のなさに、激しく落胆した。貫一の心は、傷ついていた。


 貫一は思った。

 ……俺は、無力だ……

 貫一は、悲しかった。

 すると、の利用者の40代の女性が、彼を憐れんで優しい言葉をかけてきた。

 「大丈夫?」

 彼女は、とても心配そうな顔をして、貫一の顔を覗き込んだ。


 この子が、川口こずえである……。


 貫一は、こずえが、愛の世界に、導いてくれそうな気がして、藁をもすがる思いですがる。こずえが、貫一の事を、どう思っているのか? 分からなかったが、少なくても、嫌悪している様子は、なかった。

 こずえは、そっと、貫一の腕を引っ張った。


 こずえは、貫一の勇気ある行動に、余りこんな感じの人が、周りにいなかったと、思って、興味津々だった。 

 こずえは、彼の心を掴んで、彼に、虚弱な男を守った様に、自分も守ってもらいたいと、思っていたのかもしれない……。


 貫一は、彼女との愛に溺れて、現実逃避することもできたが、どうしても、虚弱な男を、見捨てて、自分だけ幸せになることが、許せなかった。


 そこで、彼らと戦って、こずえの心を動かして、こずえをゲットする為に、彼らと、戦うことにした。

 貫一は思った。

 ……まずは、味方を作らないと…・・・

 それから暫くした、ある日のことだ、貫一は、職員の立花さんに、味方になるように、窮状を訴えた。

 「立花さん、彼らが、ポチ、ポチって……」

 「そうね、私たちも、あれは、やり過ぎだと思っていたのよ……」


 虚弱な男に対して、彼らの接し方が、良くないと思っていたのは、貫一だけでなく、職員も一緒だったようだ……。

 貫一は、の職員を、味方にした。


 そこで、貫一は、彼らの連携を、断ち切るために職員の立花さんに提案した。

 「ポチ、ポチ、言ってきたら、片割れを施設外の草取りにでも、放り出してよ……」

 すると、職員の立花さんは、「分かった」と、言って、にっこり笑った。


 これで、形勢は逆転だ……。


 そんな様子に、不安を感じたこずえは、「そんな事、やめようよ…」そう言って、   貫一の服の裾を引いた。

 そんなこずえの様子に、貫一の心に、迷いが生まれた。


 でも、貫一は思った。

 ……それでも、やっぱり、俺は、戦うんだ……多分、男ってものは、戦うことに価値が、ある生き物だから……

 そう思って、貫一は、こずえの手を振りほどって、彼らとの戦いの準備を始めた。


 でも、貫一は、頭が冷えてくると、この戦いに、どんな意味があるのだろうか? と考える事が多くなった。

 虚しさだけが、彼の心を締め付ける。

 ……でも、今のままじゃダメだ……


 戦う準備の整った、ある日の事……


 貫一は考えていた。

 ……仮に、勝ったとして、相手は、貫一に対して憎しみしか覚えない……もっと、相手にすべき、大きな敵がいるのではないのか? ……


 それでも、今は、……。



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