幕間

幕間 出会って初めての誕生日

 「紀乃、誕生日おめでとう」


 出会いから約二か月ほど経った時のことだ。紀乃が口々にそう言われているのを聞いて、誕生日って、なに、と聞いた。あいにく刑部の時代に、そんな習慣はなかった。


 「生まれた日のことだよー」


 紀乃はすんなり答えた。わたしは今日生まれたから、今日から五歳なの、とはきはきと答えた。それを受けて、なるほどこの時代はそういう年の数え方をするのかと理解した。


 「そうか、おめでとう」


 よしよしと頭を撫でると嬉しそうに笑った。五歳、と答えられ身を切る思いで手放した娘がちょうどそのくらいだったと思い返す。あの後、元気に過ごしただろうか。無事に育ち、どこぞに嫁入りして幸せになってくれたなら、何も言うことはない。


 「刑部さんは?いつ生まれたの?」


 「さあなあ……いつじゃろうねえ」


 先生に聞いてりゃ教えてもらったかしら、と今更ながら後悔した。とりあえず正月で年数えてたからわからんの、と答えた。


 紀乃はそれにふーん、と言った後、じゃあお正月におめでとうって言ってあげるね、と言い出した。幽霊は年をとらんじゃろう、と苦笑しつつ、その気遣いが嬉しかった。


 「じゃあ刑部さんって、いくつなの」


 果たして、これにどう答えたものか。


 死んだときで考えていいなら、享年二十八である。さらにそこから今は四百年ほどたっている(これは紀乃の曽祖父に教えてもらった)。単純に考えれば四二八歳、とでも答えればいいのだろうが、本当にそれでいいのか。


 なにせ、今は五歳の幼子だが、やがて彼女は大人になる。あの矍鑠とした曽祖父の姿を思えば、紀乃もまた長命であろう。きっと、思っているよりも早く刑部は紀乃に年を追い越されてしまう。刑部は構わないが、紀乃にとってみたらどうか。


 ずっと年上だったはずの刑部の年に近づき、やがて追い抜く。しかも刑部は変わらぬ姿のままだ。多分、気分はよくなかろう。おまけに追い抜くときの年は、まだ女盛りの歳である。


 逡巡して、はぐらかすこととした。指を折って数えるふりをして、四百いくつかねえ、と言ったところ、紀乃はぽかんとした顔をした。


 「なんねその不細工な顔」


 べっぴんさんが台無しじゃ、頬をつまんで咎めておいた。紀乃は納得のいってない顔だったが、大人しく引き下がった。


 さていつ、教えてやろうかしら。


 いずれ来る追い抜かれる日を、刑部は不思議と楽しみだと思った。

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