鷹村さん

最近のテレビでは心霊関連の番組が、俺が幼少の頃と比べてかなり減ったという印象がある。正確に数え、比べた訳ではないからあくまでも印象で留めておく。

そして昔のテレビでは、よく心霊写真が話題に上がっていた事を思い出す。そういえば中学校の頃、心霊写真を取りにインスタントカメラ片手に友達5人で廃工場に入った事もあった。成果は無かったが、

そんな思いを、つまり心霊写真を見たい思いを内に秘め、普段は忘れ、時々思い出し、大学を卒業し、新社会人となりサラリーマンとして生活を過ごしている今、俺はこの目で念願だった心霊写真を見る機会に恵まれる事になった

事の発起人は鷹村さんという女性、この人は乙さんと知り合いで、そして見える人だ。それは本人も乙さんも認めている。

鷹村さんは俺と同じ年ぐらいなのだが、年齢に比べ見た目がかなり幼い印象を他者に与える。身長も一般的な女性よりも少し小柄だ

鷹村さんは昔、乙さんと共に行動していたらしい、乙さんに確認すると「付き合わされただけ」とため息交じりに言っていた

鷹村さんは小柄で可愛い感じの女性だ、一般的に言って美人の部類だと言える。しかし一点、目立つ特徴があった。それは背中にある大きなリュックサックである。たぶん登山用のものであろうそのリュックは鷹村さんを背負っているようにも見える。

これは彼女愛用のバッグらしく、外出時、常に携帯している

俺はこのリュックを背負い、街中の人込みを歩く鷹村さんが居る光景を想像した。想像した結果、関わり合いたくないと思ったのが率直な感想だった

鷹村さんと出会ったのは乙さんに紹介されたバーで酒を飲んでいた時、彼女が来店した。マスターは俺と乙さんの関係を知っており、マスターの口から、俺が乙さんの知り合いと伝えられると一気に距離を詰めてきて俺はドギマギした。

そして酒もいい感じに回り、マスターの口添えもあり、俺と鷹村さんはその日の内に馬があった。同じオカルト好き同士として、そして話題が心霊写真になり、心霊写真を持っているとの事だったので見せてもらう事になった

後日、仕事帰り俺は鷹村さんの部屋に行く事になった。俺は男一人、女性の部屋に行くのはどうかと思われたが、気にしているのは俺だけらしく、鷹村さんは全くそんな事気にしていないようだった。本当にただのオカルト好き同士、ただ珍品を見せびらかしたいだけなんだと思われる。俺もそれでいい、目的は心霊写真だ

鷹村さんの部屋は本当に住んでいるのかと疑問に思う程、生活感がなく、借りたばっかの部屋のようだった。本人曰く、大体外に出ているからここにはあまり来ないとの事だった。

俺はその部屋のほぼ中心のテーブルの上に広げられた写真をまじまじと見る

写真は計3枚あった。一つは深夜の廃墟の中に浮かぶオーブ、一つは交差点の高架橋下を移した写真、一つは旅館の一部屋だった。今時現像している写真なんて珍しい

俺は一つの写真ではオーブが写っている事は分かったが、残り二つが分からず、じっくり何度も見る。そんな様子の俺に対して鷹村さんが助け船をだしてくれた。高架橋下の写真は道路を挟んで向こう側にある電話ボックスを指差し、旅館の一室の写真は右上上部を指差した。俺はその部分を凝視する

遠くの電話ボックスの向こう側に消えかかっている女性の輪郭があった。旅館の一室にはうっすらとこちらを覗き込むような目が大きく映っていた。3つとも昔の番組で見たようなものだった。どちらかというと番組の物の方が怖い迄ある

俺は若干落胆した。確かに異常なものは写っているが、これが本物だと言える根拠があるものではなかったからだ。鷹村さんは自信満々に廃墟、高架下、旅館の順番に写真を指差す

「これはね、運よくカメラを持っていてね、撮れたの、これは2日粘ったわ、警察に職質されないようにするのに苦労したわ、これなんて3日よ、あっ、でも料理とお風呂はよかったから、唯の旅行ね」

一瞬何を言っているのか分からなかったが、乙さんと鷹村さんが言った見える人という言葉が頭に浮かび、鷹村さんが見える側の人だった事を思い出した。

「これ全部、鷹村さんが撮ったものなんですか」

「そうだよー、この時はふと心霊写真ってとれるのかなって思って実験していたの、約半年で結果は3枚」

「それって、幽霊が現れたのが3回って事ですか」

「違う、違う、この間も結構な場所に言ったりして見てきたし、普段の街中でも見ていた、その都度、その都度、カメラを取り出して撮影、でも大体が風景写真で、写ってない、波長みたいなものがあるみたい、結構いいカメラ買ったんだけどなぁ」

つまり、この人は見える能力を使い、幽霊を狙って撮っていた。テーブルの上には無いがその撮影した風景写真の中心にはこの世のモノでは無い、異常の存在がいる。しかもこの人は街中で写真をとっているとも言っていた。つまり俺たちの日常の中に溶け込んでいる

急にこの3枚の写真の信憑性が高まった。俺はもう一度3枚を見る。写っている異常なものを注視する。これが異常なる存在のそのものの姿、

写真を食い入るように見ている俺の隣で鷹村さんが残念そうに言った。

「でも、半年で止める事になっちゃった。結構楽しかったんだけどな、結果、旅行もたくさんできたし、やっぱりね、世の中やっちゃダメな事ってあるのよ」

「それはなんです?」

鷹村さんは瞳を落としながら座った姿勢で小さく体を左右に振っていた。そして俺の問いに頭を掻きながら、えへへっを苦笑いをした

「なんかね、向こうがこっちを見る様になっちゃって、それで家までついてきて、結果、憑りつかれるわ、病気になるわ、事故になるわで、もう、大変、幸い、家を引っ越すなり、対処の方法をある程度知っていたからそこまで大事にならずにすんだけど、あんな経験、もう二度としたくないな」

それを聞いた俺は部屋の中を一望した

「それって最近の事ですか?」

「うん、半年ぐらい前かな」

「・・・半年ぐらいか」

俺はもう一度室内を見渡す、さすがに半年住んでいるにしては生活感がなさすぎる。そんな俺に対し、鷹村さんが何も聞かずとも答えてくれた

「此処は未だ引っ越して二か月、でもそろそろ出ないといけない」

道理で部屋に何も置いてなく、生活感が無いわけだ

「出ないと、って引っ越しするんですか、それは何故です」

また、えへへっと苦笑いをする

「半年前から居場所が直ぐ特定されちゃって集まるようになっちゃって、それで、初めは一日ずつ、転々と住む場所を変えていって、今やっと2か月定住出来るようになったの」

俺は別の意味で再び回りを見回した。何もいない

「集まるって、その・・・」

「うん、幽霊」

俺は飛び起き、駆け出して鷹村さんの部屋を出た。その後、鷹村さんのアパートの前で落ち着くと鷹村さんに電話した、そしてさっきの無礼な行いを謝罪し、帰る事を伝えた。鷹村さんの部屋に戻るつもりは毛頭なかった。

電話中、鷹村さんは始終何も気にしていないと言った様子で朗らかだった。そして俺は同時に鷹村さんが大きなリュックサックを背負っている意味も理解できた。

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