第21話
香織と涼介は、石川美咲の死因を追求するために、病院内での詳細な調査を進めることに決めた。まず、手術に関わったスタッフから直接話を聞くことが必要だと考えた。
二人は医療記録と手術映像の分析を終えた後、手術に関与したスタッフたちへの聞き取りを始めた。病院内はどこか緊張感が漂っており、スタッフたちは慎重な態度を崩さなかった。
最初に話を聞いたのは、手術助手の木村玲子(きむら れいこ)だった。玲子は落ち着いた表情で、香織と涼介に手術当日の様子を語り始めた。
「手術当日は非常に慌ただしかったです。美咲さんの容態が急変したとき、全員がパニックに陥りました。私たちは最善を尽くしましたが、結果的に彼女を救えなかったことが悔やまれます。」玲子は沈んだ声で言った。
「手術中に何か異常に気づいたことはありませんでしたか?」香織が優しく尋ねた。
「実は、薬剤のラベルがいつもと違うことに気づいたんです。でも、すぐに確認する時間がなくて…」玲子は後悔の念を込めて続けた。
「その薬剤を準備したのは誰ですか?」涼介が尋ねた。
「最後に薬剤を確認したのは、管理部長の嶋田啓介さんでした。彼が薬剤を持ってきて、私たちに指示を出していました。」玲子は緊張した表情で答えた。
「ありがとうございます、玲子さん。あなたの証言は非常に重要です。」香織は感謝の意を示し、次のステップに進むことを決めた。
次に、二人は手術中に麻酔を担当していた麻酔科医の鈴木達也(すずき たつや)に話を聞いた。鈴木は手術当日、薬剤の管理について重要な役割を果たしていた。
「鈴木先生、手術中に何か不審な点に気づきましたか?」涼介が尋ねた。
「確かに、薬剤のラベルが普段とは違っていました。私は嶋田部長に確認を求めましたが、彼は『問題ない』と言いました。結果として、私はその言葉を信じて投与してしまいました…」鈴木は深くため息をついた。
「その後、何か異常を感じましたか?」香織が続けて尋ねた。
「美咲さんが急変した瞬間、すぐに異常を察知しましたが、すでに手遅れでした。あの時、もっと慎重に確認すべきでした…」鈴木の声には後悔が滲んでいた。
「ありがとうございます、鈴木先生。あなたの証言も非常に重要です。」香織は再び感謝の意を示し、二人は次の手掛かりを追うことにした。
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調査を進める中で、香織と涼介は病院内の隠蔽工作の痕跡を発見した。特に、薬剤の投与記録が改ざんされていることに気づいた。医療記録と手術映像には明らかな矛盾があり、これは意図的なものとしか考えられなかった。
「これが隠蔽工作の証拠です。嶋田啓介が関与している可能性が高い。」香織は記録を示しながら言った。
「そうですね。彼が何を隠そうとしているのか、真相を突き止めなければなりません。」涼介も同意した。
二人は、嶋田啓介のオフィスに向かうことにした。彼のオフィスは病院の管理部にあり、通常は静かな場所だった。しかし、今日の香織と涼介の訪問は、嶋田にとって予期せぬものであった。
「嶋田部長、少しお時間をいただけますか?」香織がドアをノックしながら尋ねた。
「どうぞ、入ってください。」嶋田は冷静な表情で二人を迎え入れた。
「私たちは三田村・藤田探偵事務所の三田村香織と藤田涼介です。石川美咲さんの手術に関する調査を行っています。」香織が名乗った。
「はい、何かご用でしょうか?」嶋田は静かに答えた。
「手術中に投与された薬剤について、いくつかの疑問があります。記録に不自然な修正が見られるのですが、これはどういうことでしょうか?」涼介が直接的に尋ねた。
「そのようなことは聞いていません。薬剤は全て適切に管理されています。」嶋田は冷静に答えたが、その目には一瞬の動揺が走った。
「しかし、複数のスタッフが薬剤のラベルが違っていたことを証言しています。何か隠していることがあるのではないですか?」香織が鋭く問い詰めた。
「私は何も隠していません。ただ、医療ミスがあったことは確かです。しかし、それが故意であったかどうかは別の問題です。」嶋田は冷ややかな態度で答えた。
「私たちは真実を追求しています。もし、何か知っていることがあるなら、すぐに教えてください。」涼介が強い口調で言った。
「今はこれ以上話すことはありません。どうぞ、お引き取りください。」嶋田は扉を指し示し、二人を退出させた。
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香織と涼介は、嶋田の冷たい対応に疑念を深めながらも、さらなる証拠を集めるために調査を続ける決意を固めた。彼らは美咲の死の真相を明らかにし、隠蔽工作を暴くために全力を尽くす。
「次は手術に関わった他のスタッフにも話を聞きましょう。まだ何か重要な手がかりがあるはずです。」香織が言った。
「そうですね。彼女の無念を晴らすために、全力を尽くしましょう。」涼介も同意し、二人は再び病院内を歩き始めた。
調査はますます複雑になっていくが、香織と涼介の強い意志と決意は揺るがなかった。真実を追い求める彼らの旅は、まだ始まったばかりだった。
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