第20話

三田村香織と藤田涼介は、アイランドシティの総合病院に向かう車内で、先ほどの依頼人、石川隆の話を思い返していた。彼の娘、美咲が医療ミスで命を落としたという悲劇を聞き、二人は強い使命感に駆られていた。


「美咲さんのために、真実を必ず見つけ出しましょう。」香織が運転席で静かに言った。


「もちろんです。彼女の死因を明らかにしなければ。」涼介も決意を新たにした。


病院に到着すると、二人はまず医療記録の確認を求めた。受付で探偵の身分証を提示し、医療記録室に案内される。記録室は冷たい蛍光灯の光に照らされ、無機質な雰囲気が漂っていた。


「こんにちは。私たちは三田村・藤田探偵事務所の三田村香織と藤田涼介です。石川美咲さんの手術に関する記録を確認したいのですが。」香織が受付担当者に丁寧に伝えた。


担当者は一瞬ためらったが、手続きの後に必要な書類を渡してくれた。二人は席に着き、慎重に記録を確認し始めた。


「まずは手術の詳細を見てみましょう。」涼介が言い、医療記録を広げた。


手術の進行状況、使用された薬剤、手術チームのメンバーなど、全ての情報が記録されていた。しかし、香織と涼介はすぐに異常に気づいた。薬剤のリストに不自然な修正の痕跡があったのだ。


「これは…何かがおかしい。」香織が眉をひそめながら言った。「薬剤リストが改ざんされている可能性があります。」


「確かに。これが本当なら、美咲さんに投与された薬剤が間違っていたことを示している。」涼介も同意した。


次に、二人は手術中の映像を確認するために、セキュリティルームへと向かった。手術室の監視カメラの映像を見せてもらうよう依頼すると、セキュリティ担当者は渋々ながらも承諾した。


「これが手術当日の映像です。」担当者がモニターを操作し、映像を再生し始めた。


映像には、美咲の手術の様子が克明に映し出されていた。医師たちが集中して手術を行う中、香織と涼介は特に薬剤の取り扱いに注意を向けた。


「ここを見てください。」涼介が画面を指さし、薬剤が注射器に取り込まれる瞬間を示した。「この薬剤が実際に投与されたのか確認する必要があります。」


映像を詳細に分析する中で、二人は薬剤が明らかに取り違えられている場面を見つけた。その瞬間、美咲の容態が急変し、医師たちが慌てる様子が映し出されていた。


「これが美咲さんの命を奪った原因だ。」香織は息を呑みながら言った。「誤った薬剤が投与されたのは間違いない。」


「しかし、なぜこんなミスが起こったのか。そして、なぜ隠蔽されようとしているのか。」涼介も困惑した表情を浮かべた。


二人は手術チームのメンバーに直接話を聞くことにした。最初に接触したのは、手術室で看護師として働いていた山本奈々(やまもと なな)だった。彼女は手術当日の状況について、詳細な証言を提供してくれた。


「手術は急なもので、非常に慌ただしい状況でした。私は薬剤の準備を任されていましたが、何かが違うと感じました。でも、あの時は気づくことができなかった…」山本は涙ぐみながら語った。


「あなたが感じた違和感について、もう少し詳しく教えてください。」香織が優しく促した。


「実は、薬剤のラベルがいつもと違っていたんです。でも、手術の緊張感の中で、確認する時間がなかった…」山本は後悔の念を込めて続けた。


「その薬剤を準備したのは誰ですか?」涼介が尋ねた。


「確か、管理部長の嶋田啓介さんが最後に確認していました。彼が何かを言っていたような気がしますが…」山本は思い出すように言った。


「ありがとうございます、山本さん。あなたの証言は非常に重要です。」香織は感謝の意を示した。


こうして、香織と涼介は美咲の死因に関する重要な手がかりを得た。薬剤の投与ミスが彼女の命を奪った原因であり、さらにその背後には管理部長の嶋田啓介の関与が疑われる。


二人は手に入れた証拠と証言をもとに、さらなる調査を進める決意を固めた。真実を明らかにし、美咲の無念を晴らすために、彼らの戦いは始まったばかりだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る