第13話

香織は、氷室玲奈の真実を知るために、よりリラックスした環境での会話が必要だと感じた。病院内の食堂は、日常の緊張感を少しでも和らげるための場所として最適だった。玲奈を誘って昼食を共にすることで、彼女の内面に迫ることができると考えた。


食堂に入ると、香織は笑顔で玲奈に席を勧めた。「玲奈さん、少し落ち着いてお話しましょう。今日は特においしいメニューがあるそうですよ。」


玲奈は少し戸惑った表情を見せながらも、香織の温かい誘いに応じた。「ありがとうございます。少しリラックスするのも悪くないかもしれません。」


二人はテーブルに座り、メニューを選びながら自然な会話を続けた。香織は玲奈の緊張をほぐすために、病院での仕事の話や日常の些細な出来事について話し始めた。


「今日は特製の冷製トマトのカッペリーニがあるそうです。とてもさっぱりして美味しそうですね。」香織はメニューを指さしながら言った。


玲奈は微笑んで同意した。「それはいいですね。最近は忙しくて、あまり食事に気を使っていなかったので、楽しみです。」


注文を済ませ、料理が運ばれてくる間に、香織は話題を変えた。「玲奈さん、昨夜のことについてもう少し詳しく教えていただけますか?何か気になることや不安に感じたことがあれば、何でも教えてください。」


玲奈は一瞬沈黙し、目を伏せた。「実は…最近、何かがおかしいと感じていました。特に、真城さんの行動が気になっていました。彼は新人ですが、時折奇妙な行動を取ることがありました。」


「具体的にどんな行動でしたか?」香織は優しく問いかけた。


「例えば、私が残業している時に突然現れて、特に用事もなく話しかけてきたり、私の仕事を覗き込んだりすることがありました。でも、彼が何を考えているのかはわかりませんでした。」玲奈の声には不安がにじんでいた。


香織は玲奈の話に耳を傾けながら、彼女の表情や仕草に細心の注意を払った。玲奈の言葉には真実が含まれているが、その裏にはまだ何か隠されているように感じた。


「それは確かに気になる行動ですね。私たちも彼のことを詳しく調査しています。安心してください、玲奈さん。」香織は微笑んで言った。


その時、料理が運ばれてきた。冷製トマトのカッペリーニが、美しい盛り付けでテーブルに並べられた。香織は玲奈に勧め、「さあ、食べましょう。少しリラックスして、美味しいものを食べるのも大事ですから。」


玲奈は感謝の気持ちを込めて微笑み、フォークを手に取った。「ありがとうございます、香織さん。本当に助かります。」


食事をしながら、香織はさらに玲奈の心を開くために、彼女の趣味や家族の話を聞いた。玲奈の緊張は次第にほぐれ、少しずつ素直な気持ちを語り始めた。


---


一方、涼介はセキュリティルームに戻り、防犯カメラの映像を詳細に解析していた。彼の目はモニターに釘付けで、一瞬たりとも見逃さないように集中していた。


「処方箋が盗まれた時間帯に、何か不審な動きがあるはずだ。」涼介はつぶやきながら映像を巻き戻し、再生を繰り返した。


真城拓真の姿が映像に映り込んだ瞬間、涼介の目が鋭く光った。真城は確かに薬剤部に出入りしていた。しかも、何かを持ち出すような動きが確認できた。


「ここだ…確かに何かを持ち出している。」涼介は映像を一時停止し、その瞬間を詳細に確認した。真城の手には、処方箋と思われる書類が見えた。


「やはり、真城が関与している可能性が高い。」涼介はすぐに香織に連絡を入れ、映像の確認結果を報告した。


香織は電話越しに涼介の報告を聞きながら、冷静に考えを巡らせた。「了解しました。すぐに戻ります。」


香織は玲奈に微笑んで言った。「玲奈さん、少し席を外しますが、また後でお話を聞かせてくださいね。」


玲奈は頷きながら答えた。「わかりました。お待ちしています。」


香織は食堂を後にし、涼介の元へ急いだ。二人は防犯カメラの映像を再確認し、真城の行動が疑わしいことを確認した。


「真城拓真の行動には、確かに不審な点が多いですね。彼に直接話を聞いて、さらに詳しく調査する必要があります。」香織は決意を固めた。


「そうだね。真城の動機や背景を掘り下げることで、事件の真相に近づけるはずだ。」涼介も同意した。


二人は真城拓真に再度接触し、詳細な質問をすることで、事件の核心に迫ろうと動き出した。彼らの冷静な判断と鋭い洞察力が、次第に事件の真実を明らかにしつつあった。

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