第12話

香織と涼介は白南風病院の防犯カメラ映像を確認するために、セキュリティルームに向かった。セキュリティルームの扉を開けると、中には複数のモニターが並び、24時間体制で病院内の動きを監視しているスタッフがいた。


「私たちは三田村・藤田探偵事務所の三田村香織と藤田涼介です。昨夜の事件に関する映像を確認したいのですが、協力していただけますか?」香織が丁寧に依頼すると、スタッフはすぐに対応してくれた。


「もちろんです。昨夜の録画映像はこちらにあります。どの時間帯を確認されますか?」スタッフがモニターを操作しながら尋ねた。


「処方箋が消えたのは22時頃です。その前後の映像を確認したいです。」涼介が答えると、スタッフは指定された時間帯の映像を再生し始めた。


モニターには、薬剤部の廊下や出入り口が映し出されていた。映像をじっくりと見つめる香織と涼介。彼らの目は少しの異常も見逃さないように集中していた。


「ここです。」香織が指をさしたのは、22時過ぎに薬剤部の出入り口に現れた人物だった。彼は新人薬剤師の真城拓真だった。真城は周囲を気にしながら、素早く薬剤部に入っていった。


「真城拓真ですね。彼が何をしていたのか確認する必要があります。」涼介が言った。


その後の映像を追っていると、もう一人の人物が現れた。内科医の永井浩一だった。彼は薬剤部の近くを歩きながら、何度も後ろを振り返っている。


「永井浩一も不審な動きをしていますね。」香織は目を細めた。「二人の行動が処方箋の盗難に関係しているかもしれません。」


「真城拓真と永井浩一、それぞれの行動を詳細に調べましょう。」涼介は決意を固めた。


まずは真城拓真に話を聞くことにした。香織と涼介は薬剤部のオフィスに向かい、真城が休憩している部屋を訪ねた。扉をノックすると、真城が少し緊張した表情で現れた。


「三田村・藤田探偵事務所の三田村香織です。こちらは藤田涼介。昨夜の件でお話を伺いたいのですが、お時間をいただけますか?」香織が丁寧に尋ねると、真城は一瞬戸惑った表情を見せたが、すぐにうなずいた。


「もちろんです。何か問題があったのでしょうか?」真城は困惑しながらも、協力的な態度を見せた。


「昨夜22時頃、あなたが薬剤部に入っていく姿が防犯カメラに映っていました。何をしていたのか教えていただけますか?」涼介が直接的に尋ねた。


真城は一瞬言葉に詰まったが、やがてゆっくりと話し始めた。「実は、昨夜遅くまで残業していたんですが、急に思い出したことがあって、薬剤部に戻りました。でも、何も異常は見当たりませんでした。」


「具体的に何を思い出したのですか?」香織はさらに追及した。


「処方箋の整理を忘れていたと思ったんです。でも、実際にはすでに処理されていました。」真城は真剣な表情で答えたが、その言葉にはどこか曖昧さが残っていた。


「わかりました。ありがとうございました。引き続き協力をお願いすることになるかもしれません。」香織は礼を言い、真城と別れた。


次に、二人は永井浩一に話を聞くことにした。永井は診察を終えたばかりで、オフィスで書類に目を通していた。香織と涼介が訪ねると、彼は少し驚いた様子を見せた。


「永井先生、昨夜の件でお話を伺いたいのですが、お時間をいただけますか?」涼介が尋ねると、永井は即座に対応した。


「もちろんです。どうぞ、お座りください。」永井は冷静に応じた。


「昨夜22時過ぎに、薬剤部の近くであなたが何度も後ろを振り返る姿が防犯カメラに映っていました。何をしていたのか教えていただけますか?」香織が直接尋ねた。


永井は一瞬眉をひそめたが、すぐに冷静さを取り戻した。「その時間帯に薬剤部の近くを通ったのは確かです。患者さんの容態が急変し、必要な薬を取りに行ったんです。でも、何度も振り返った覚えはありませんが…」


「具体的にどの患者さんのための薬だったのでしょうか?」涼介が尋ねた。


永井はカルテを確認しながら答えた。「田中さんという患者さんです。彼の容態が急変し、必要な薬を急いで取りに行ったのですが…」


香織は永井の言葉に耳を傾けながら、彼の表情を注意深く観察した。永井の言葉には一貫性があったが、その裏には何か隠されているようにも感じた。


「わかりました。ありがとうございました。引き続き協力をお願いすることになるかもしれません。」香織は礼を言い、永井と別れた。


香織と涼介は二人の証言を元に、さらに調査を進めることにした。真城拓真と永井浩一、どちらの行動も不審だが、まだ決定的な証拠はない。二人の動機や背景を掘り下げる必要があった。


「まずは、真城拓真の過去と永井浩一の過去を調べましょう。何か見落としていることがあるはずです。」香織は冷静に提案した。


「そうだね。二人の行動には共通点があるかもしれない。」涼介はうなずいた。


二人は再び防犯カメラの映像を確認し、病院内の出入り記録を照合しながら、事件の真相に迫るための手がかりを探し続けた。次第に明らかになる陰謀と、氷室玲奈の過去に隠された秘密が、彼らの前に立ちはだかるのだった。

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