第5話

香織と涼介は、鷹野から得た情報を元に、亜沙美が薬を使用した経緯とその影響をさらに詳しく調査することに決めた。鷹野の告白には確かに衝撃があったが、それだけでは全ての謎が解けるわけではない。真実を追求するために、二人は次のステップへと進んだ。


門司港の街並みが夕暮れに染まる頃、香織と涼介は白南風病院を後にし、新たな手掛かりを探すために亜沙美の大学を訪れることにした。亜沙美がどのような研究をしていたのか、また彼女が試していた薬に関する情報を得るために、彼女の研究室を訪れる必要があった。


大学のキャンパスは静まり返り、ほのかな灯りが点在する中、二人は亜沙美の研究室へと向かった。そこには、彼女の研究仲間である藤原美紀(ふじわら みき)が待っていた。美紀は亜沙美の親友であり、研究を共にしていた人物だった。


「藤原美紀さん、突然の訪問で申し訳ありません。私たちは三田村・藤田探偵事務所の三田村香織と藤田涼介です。亜沙美さんの件でお話を伺いたいのですが、お時間をいただけますか?」香織は慎重に言葉を選びながら尋ねた。


「もちろんです。亜沙美のことを知りたいと聞いて、お力になれることがあれば。」美紀の声には深い悲しみが込められていた。


「亜沙美さんが最近どのような研究をしていたのか、詳しく教えていただけますか?」涼介が問いかけた。


「亜沙美は、新しい抗アレルギー薬の研究に取り組んでいました。その薬は、従来の薬よりも効果が高く、副作用も少ないと期待されていました。しかし、試験段階でいくつかの問題が発生し、その一つが彼女の体調不良に繋がったのかもしれません。」美紀は涙をこらえながら説明した。


「具体的にどのような問題があったのでしょうか?」香織は鋭く問いかけた。


「一部の被験者に対して、免疫系が過剰反応を起こすケースが報告されました。亜沙美もその一人で、彼女は自ら進んで薬の試験に参加しました。」美紀は深い息をつき、続けた。「彼女はとても熱心で、自分の体で試すことで研究を進めようとしました。」


香織は美紀の言葉に耳を傾けながら、亜沙美の献身的な姿勢を思い浮かべた。彼女は自分の体を張って研究に取り組んでいたが、それが命を危険にさらすことになるとは誰も予想していなかった。


「亜沙美さんが体調を崩した後、何か変わったことはありませんでしたか?」涼介が続けて尋ねた。


「彼女は薬の使用を中止しましたが、その後も体調が安定せず、頻繁に病院を訪れていました。私は何度も彼女に休むように言いましたが、彼女は研究を続けたいと強く主張していました。」美紀の声には無力感が滲んでいた。


香織は美紀の話を聞きながら、亜沙美の強い意志と情熱に感銘を受けたが、同時にその情熱が彼女を追い詰めたのではないかという疑念も抱いた。亜沙美の死の真相を解明するためには、さらに深い調査が必要だった。


「藤原さん、ご協力ありがとうございます。もう一つお願いがあります。亜沙美さんが使っていた研究データや薬のサンプルを見せていただけますか?」香織は丁寧に頼んだ。


「もちろんです。こちらへどうぞ。」美紀は二人を研究室へ案内し、亜沙美が使っていたデータと薬のサンプルを見せた。


香織と涼介は、亜沙美の研究ノートやデータを注意深く調べ始めた。データには、薬の成分や効果、副作用に関する詳細な記録が記されていた。そして、亜沙美の体調の変化も克明に記録されていた。


「ここに、彼女が薬を使用した日付と、その後の症状が詳細に書かれています。これを元に、彼女の体調の変化を追ってみましょう。」香織は涼介に示しながら言った。


「そうですね。このデータが鍵になります。」涼介は同意し、二人は亜沙美の研究データを基に、さらに調査を進める決意を固めた。

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