第4話
香織と涼介は、桜井翔太から得た新たな手掛かりを胸に、再び白南風病院へと向かった。薬剤師の鷹野健との面談を予約し、亜沙美が試していた薬の真相に迫るべく動き出した。
病院に到着した二人は、薬剤部のオフィスへと足を運んだ。白南風病院の薬剤部は清潔で整然としており、薬の棚が規則正しく並んでいる。鷹野健は、細身の体型に知的な雰囲気をまとった男性で、冷静な眼差しが印象的だった。
「鷹野健さんですね。私たちは三田村探偵社の三田村香織と藤田涼介です。草野亜沙美さんの件でお話を伺いたいのですが、お時間をいただけますか?」香織が丁寧に切り出した。
「もちろんです。お話を伺います。」鷹野は冷静に応じたが、その瞳には一瞬の緊張が走ったのを香織は見逃さなかった。
「亜沙美さんが最近、ある薬を試していたと聞きました。その薬について何かご存知でしょうか?」涼介が直接的に尋ねた。
鷹野は一瞬視線を逸らし、考え込むように手元の書類を見つめた。「ええ、彼女が試していた薬は、新しい抗アレルギー薬の試験段階のものでした。まだ市販されておらず、病院内でのみ使用されているものです。」
「その薬に関する詳しい情報を教えていただけますか?」香織は鋭く問いかけた。
鷹野は深いため息をつき、慎重に言葉を選びながら答えた。「その薬は、免疫系に働きかけてアレルギー反応を抑える効果があります。しかし、副作用も少なくはありません。亜沙美さんには、慎重に使用するよう説明していたのですが…」
「副作用というのは?」香織はさらに追及した。
「極稀に、免疫系が過剰反応を起こし、アナフィラキシーショックのような症状が出ることがあります。ただ、その確率は非常に低いはずでした。」鷹野の声には、どこか自責の念が込められていた。
香織は鷹野の表情を観察しながら、心の中で思考を巡らせた。彼の説明には一貫性があるが、何かがまだ隠されている気がした。彼の瞳には、何かを隠そうとする不安が宿っている。
「鷹野さん、この薬の管理には厳重なチェックが必要だと思いますが、亜沙美さんがどのようにしてその薬を手に入れたのか、記録がありますか?」涼介が尋ねた。
鷹野はため息をつき、パソコンの前に座り、データベースを検索し始めた。しばらくの間、沈黙が続いた。香織は鷹野の緊張した背中を見つめながら、彼の内心にある葛藤を感じ取っていた。
「ここにあります。亜沙美さんは、私が直接彼女に薬を渡した記録があります。」鷹野は画面を見せながら言った。
「あなたが直接ですか?」香織は少し驚いた。
「ええ。彼女は私に信頼を寄せていたようで、薬の使用について何度も相談に来ていました。私は彼女に慎重に使用するよう何度も説明しましたが…」鷹野の声は次第に震えていた。
香織は深い呼吸をし、冷静に問いかけた。「鷹野さん、亜沙美さんが体調を崩した時、あなたはどのような対応を取ったのですか?」
鷹野は目を閉じ、しばらくの間沈黙した。そして、重い口を開いた。「彼女が急に苦しみ始めた時、私はすぐに救急措置を取りました。しかし、それでも間に合いませんでした。」
香織は彼の言葉に耳を傾けながら、心の中で彼の真意を探っていた。鷹野の言葉には、自己弁護と後悔が入り混じっていた。
「鷹野さん、あなたがこの薬のリスクを十分に理解していたと信じています。ですが、何か他に隠していることはありませんか?」香織は一歩踏み込んで尋ねた。
鷹野の顔が一瞬歪み、彼は視線を逸らした。「実は…亜沙美さんが薬を使用する前に、私が不注意で薬の成分を間違えた可能性があります。もしそれが原因であれば…私は彼女を殺したも同然です。」
香織は鷹野の言葉に衝撃を受けながらも、冷静にその意味を考えた。彼の告白は事件の新たな展開を示唆していた。鷹野の過失が亜沙美の死に繋がったのか、それとも別の要因があったのか。真実を解き明かすために、彼女はさらに深く調査を進める必要があった。
「鷹野さん、あなたの協力が必要です。亜沙美さんの死の真相を解明するために、全ての情報を提供していただけますか?」香織は真摯に頼んだ。
鷹野は深くうなずき、全てを話す決意を固めたようだった。「はい、全てお話しします。どうか、彼女のためにも真実を明らかにしてください。」
香織と涼介は、鷹野の協力を得て、亜沙美の死の真相に迫るための新たな手掛かりを手に入れた。まだ見ぬ真実が、この静かな病院の中に潜んでいることを信じて、二人はさらに深く調査を続ける決意を固めた。
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