冪冪たる雲、窓から見える雨

 あの居酒屋の帰り道、僕はリンタやコウメイが話していた「あってほしい人」が誰なのか考えていた。彼らの発言から察するに、僕たちのファンのだれかだろう。そうならば考えても仕方がないとあきらめると、リンタからメッセージが届いた。

「今度久しぶりにあの森に行かないか?」

「そうだね」

「ああ」

 コウメイが『了解!』と敬礼している猫のスタンプを送ってくる。なぜかこのスタンプを気に入っているらしい。


 僕は少ししてネットニュースを見る。社会情勢に意欲的なわけではなく、ただの手癖だ。

 イヤホンから音楽を流す。左手でニュースの記事をスワイプし、右手で曲のリズムを取る。これも癖だ。俗に言う職業病というやつだろうか。

 僕が知ってるところの、知らないニュースを見るうちに、ある見出しが僕の指を止めた。

「××市の〇〇地区で刺殺死体 容疑者らは逃亡か」

 見出しに書いてある場所は、あの雑木林の近くだ。嫌な予感がする。見出しをタップして開く。その『容疑者』の写真が載っていた。空間が歪むのを感じるが、その写真だけがやけにくっきりと、鮮明に見えた。

 僕たち三人の、顔が写っている。


 僕は一度人目を確認し、道の端に寄る。落ち着こう。まず確認すること。

 冷静になり、メッセージで二人にニュースのスクリーンショットを送信する。

「何かま起きてる?」

 焦って正確に文字を打てない。リンタからすぐに返信が来る。

「分からない 一度どこかに集合」

 僕は電話をかける。コウメイはすぐに出た。

「リンタは大丈夫?」

 家の方向が同じだから、おそらく共にいるはずだ。

「分からない。和泉驎太とは少し前に別れてしまった」

 絶望の音がする。いや、まだ何か起きたわけじゃないだろう。最高の状況を想像する。僕の見間違い。全ては夢。ドッキリ?いくら妄想しても、希望を現実が塗り替えていく。コウメイの声には今までにないほど焦りが出ている。

 僕たちがそこそこ有名になって来ていたのもあるのだろうか。SNSは僕たちの中傷で溢れていた。

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