本筋とあまり関係のない回想
あれは僕が小学五年生の、背伸びした分の非日常が混じった日。よく晴れた、でもまだ寒い冬休み明けの日のことだった。
「なあ
コウメイが僕に言う。言われたようにして見てみると、見慣れない名前があった。『和泉驎太』と書かれている。
「わいずみ、何た?」
『驎』。それは読めない漢字だったが、かっこよかった。
「転校生が来るんだな」
「今回は男子か」
教室に入ると、やっぱり話題は転校生で持ちきりだった。僕の学校は一学年に一クラスずつだ。卒業するまでの、残り二年間を共に過ごすクラスメイトが増えるのだ。当然、僕たちにとっての重大なイベントになる。
教室の上の方にあるスピーカーが掠れた声でチャイムを歌う。担任の先生がドアを開けた、と思ったら、見たことのない少年が入ってくる。
「今日からクラスメイトになる
後から先生が入ってきて、慌てて説明をし始めた。
平らな氷の塊に片足を乗せ、スケートボードのように滑っていた。速さはあまり出ず、隣ではコウメイが歩いて着いてきている。
雑木林の近くを通ると、腹の底を殴りつけられるような太い音と、美しい声が聞こえてきた。僕とコウメイは顔を見合わせ、雑木林の中に入っていく。歩いた先には、あの転校生がいた。その体には不釣り合いな大きさのベースを抱えている。
「君も楽器を弾くの?」
「ああ」
僕たちはもう一度顔を見合わせる。
「君たちはたしか」
彼の言葉を遮ってしまったが、興奮のあまり言葉が出てきた
「バンドできるじゃん」
転校生、もとい驎太はいまいちピンときていない。それを無視し、僕たちは自己紹介を始める
「僕は坂下夜明。ドラムをやってるよ」
「俺は
僕たちにはベースとボーカルが欠けていた。パズルがぴったりとはまるような達成感に包まれる。
「知っているか?この街には伝説のロックミュージシャンがいるらしい」
「僕たちでその人を目指そうよ」
驎太はまだ不思議そうな顔をしていたが、その目はなんだか輝いて見えた。
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